ぎゅうっとやさしく抱きしめられると、

建志の体温と、
やさしい鼓動を感じる。

それとともに建志の体から、ふんわりとお酒とかすかに煙草の匂いとーー
香水の香りがしたーー



どんっ。


「--あっ。」

「--?春乃?」

春乃は思わず建志の胸を押し返してしまう。
建志は驚いて、
困ったように春乃を見つめた。


「春乃?どうしたの?
 僕ーーなんか変なことした?」

ーーやだ。どうしよう。


頭の中でいろいろぐるぐる回る。
いろんな感情が入り乱れて
言葉がうまく出てこない。

「あのっ・・・その。
 ----なんでも、・・・無いです。ごめんなさい。」

建志にーー恋人がいたって
責められない・・・私は妻だけどーー束縛しては嫌われて
離婚なんてなったらーーー


春乃の頭に、父と母の笑顔が浮かんだ。


「---春乃?」

建志の少し低い声に春乃はびくっと肩を揺らす。

その様子をみた建志は
ふーーっとため息をついて、
黙ってシャワールームへと向かった。