この頃、日が短くなってきている。
 下る坂道はオレンジ色に染まり、遠くの太陽が紅くゆらゆらと揺れていた。
 ついこの間まで――八月の暑さは嘘のように、爽やかな風が通っていく。
 時々夕焼けに見惚れながら、由希は駅までの坂道を下りていった。

 電車に揺られる十分間。
 夏休み前まで空いていた車内は、部活を引退した上級生でそれなりに埋まっている。
 この電車を降りてまた十分歩けば、家に着く。
 外の景色が変わっていく度、由希の心は重くなった。

 駅から家までの道。
 カーブミラーが鬱陶しいほどたくさん建つ、角だらけの狭い道。
 開けたところには、もう遊ぶ子供いない、遊具の錆びた小さな公園。
 カーブミラーや遊具が、夕日を弾いて光る。
 由希は、この道のそんな光景が好きだった。

 冷たい灰色の団地が建ち並ぶ場所に出る。
 その中のひとつの一室が、由希の帰る場所だ。

 薄暗くカビ臭い階段を、三階まで上る。
 心地好いとは言えない音を立てる鉄のドアの開いて、由希は言った。

「ただいま」