午前9時。
いつも通りの朝礼。
校長の話しは耳に入ってこない。
ぼんやり見ていると口をパクパクさせた人形みたい。

同じ風景、空間、ひとびと・・・
ざわざわと周囲の声が静かな波をうつ。

隣の洋子が袖を引っ張る。
「何?」
「新任教師だって。
やだっ、ちょっと、カッコイイよっ」

洋子の目線の先を見た。

スラリとした長身、がっちりした肩幅、端正な顔立ち。
いっしゅん、カラダが熱くなるのを感じた。

「神崎守です。本日より大智中学でお世話になることになりました。
ヨロシクお願いします」

シンプルな挨拶だった。
だが、女子の注目を集めるにはそれでじゅうぶんだった。

あっという間に、常連のとりまきができた。
神崎が顧問をすることになったテニス部は
近年にまれに見る入部の多さだと、
3年1組の担任、高木カヨコはホームルームで言った。

カノジョから見れば、中学3年生が考えることなど、
一笑するに過ぎないのだろうが、
カノジョを注意深く見ているわたしから見れば、
三十路目前のカノジョも
なんら、神崎をとりまく女子と変わらない。