「空、くん……」
思わず呟いた名前。
ドクンドクンと胸が鳴る。
どうすることもできずに固まっていれば、空くんは流れる汗も気にせずに、近寄ってきて。
「……茉莉花。七海、借りるから」
「えっ……え、そ、空く……」
ぐいっと引かれた腕。
それにつられて立ち上がれば、空くんは茉莉花ちゃんの返事も聞かずに歩き出して。
「待っ……あの、茉莉花ちゃんは……っ」
そう言って振り返れば、茉莉花ちゃんは“ごめんなさい”と両手を合わせて、申し訳なさそうに笑う。
な、なんで、止めてくれないの…!?
そんな、いくらなんでも、これはイキナリすぎるよ……!?
“頑張る”って言ったって、心の準備というものが……!!
なんて、そんなことを思っている間に、遠ざかる茉莉花ちゃんの姿。
ひらひらと振られる手は、“期待”と“諦め”がこめられているようで。
気がつけば、着いていた図書室。
空くんはそのドアを勢いよく開けると、そのまま中へと入った。