―――その話は知っている。

シルリアの王女が何者かに毒殺され、王国の威信をかけて捜査をしていたところ、賊に襲われ城が焼き討ちにあった。

最近滅びたカフカ王国の場合は、何の前触れもなく突然真夜中に襲われた。

聞くところによると第2王女が逃げるも追手がかかり、従者が懸命に応戦するも命を取られたと聞いた。

セラヴィの世を良く思っていない反乱分子の仕業ではないかと言われているが・・・果たして―――



王はこの国を維持するために最愛の者と血の契約を結び、儀式を済ませ、前王から力を継承しなければならない。

歴代最高の力を持つと言われた現王、セラヴィも例外ではない。

このまま妻を娶らなければ力を失うばかり、命はもう風前の灯だ。



「もうシルリアは滅びている。王女亡き後何者かの手によって襲われた。最近もカフカ王国が襲われて滅びた。セラヴィが気に入った相手は、そのカフカの第一王女だと聞いたが?」

「あぁ・・そうだ・・。突然真夜中に襲われ、成す術もなく全滅したようだ。しかし、つくづくセラヴィも運が無いな・・・。王も運がなければ務まらんとは。で、今日ここに来たのは、もしや譲位の話か何かか?セラヴィは、もうすっかり気が弱くなっていただろう?」


「ゾルグ、何を言っている。譲位など――そんなはずないだろう。何てことない、ただの世間話をしてきただけだ。王もよほど暇らしい―――すまんが急ぎの用がある、これで失礼するよ」


「あぁ、またな―――おい、たまにはこうして城に顔を出せよ。この城中の女どもが寂しがってたぞ。私の顔を見るたびに、甘い声を出してこう聞くんだ。“今日はラヴル様はぁ?”ってな―――私はラヴルの秘書ではない、と言ってやるんだがな」


「ふ・・・彼女たちの相手は君に任せるよ―――では、またな」



軽く手をあげて挨拶をし、足早に歩くラヴル。

すれ違いざま、ゾルグの瞳が、はっとしたように見開かれた。

振り返り、去りゆくラヴルの背中をじっと見つめている。

暫くの後、脇に従えている従者に囁くように言った。



「―――おい、感じたか?」


「は?何を、で御座いましょう」


言われた従者は何のことか分からず、訝しげな表情を浮かべ首を傾げている。


「匂い、だ。ラヴルから甘い残り香が漂ってきた。あれは―――――」



ゾルグは少し考え込んだ後従者に小声で指示をし、瞳を鋭く光らせ唇を歪めた。

従者は軽く一礼をして、サッと踵を返してゾルグから離れていった。