会って間もないのに。

私は買われた身で、ラヴルはご主人様。


二人の間は、愛情などというもので結ばれてはいないのに、どうして寂しいなんて思うのかしら。


きっと、私にはラヴル以外に頼る方がいないからだわ・・・。



“お前のような者は珍しい”



オークションで、あの時男に言われた言葉がふっと浮かんだ。


そう・・・今はまだ珍しいから寵愛を受けていられるけど、そのうち飽きられる。


そうなったとき、行く宛てのない私は、この屋敷に住むことは許されたとしても、ラヴルはもう逢いに来てはくれない。


今の私にしてくれてるように、他の方の元に毎日逢いに行くわ。


私は、愛しい人をただ待つだけの日々を送ることになる。


何をすることもなく、来ない人を想い


昇る朝日と沈む夕日を数えるだけの日々―――


考えるだけで、想像するだけで、こんなに胸が苦しくなる。


そんなのは嫌。


だから、心を固く閉ざしておかないと・・・。



好きにならないようにしないと・・・。






「おーい、ユリア。聞こえるかぁ?俺だ、ライキだ」



テラスの向こうから不意に聞こえてきた、のんびりとした男の声。

テラスに出て下を覗き込むと、ライキがニッコリ笑って手を振っていた。

夜なのに麦わら帽子をかぶってる。

ユリアは手を振り返しながら、クスッと笑みを漏らした。


やっぱりライキは少し変わってる。




「俺が、ラヴル様に頼まれたんだ。ユリアを狙う者からここで守れって。この俺が、だ。だから、ここにいるから、お前は安心して寝ていいぞ」


「ライキが守ってくれるの?それなら安心して眠れるわね。ありがとう」



胸をドンと叩いたあと腰に手を当てて見上げているライキ。



その背後で黒い影がサッと動いた。



それに気付いたライキ。

目にもとまらぬ速さで振りかえり、その影を捕まえ引き倒し、あっという間もなく組み伏せて一撃を加えていた。


影はぐったりとその場に倒れている。

その首根っこを、むんずと捕まえて立ち上がった。



「―――な?この俺が、こんな風にお前を守ってやる。どうだ?こんな俺、結構強いだろ?だから、安心して寝ていいぞ」


そう言うと、ライキはぐったりとした影を引きずって、庭の向こうに消えていった。