そう聞いてきたバルの頬が赤色に染まる。

咳払いを繰り返してて緊張しているよう。

何を言うつもりなのか、分かる。

きっと、約束してた、あのことだわ―――

にっこり笑ってうなずいて見せる。



「はい、王子様。私の名は、シエルリーヌです」

「・・・シエルリーヌ。よく、聞いて判断して欲しい」


真剣なブラウンの瞳を見つめ、ゆっくり頷く。


「―――はい」


「俺は、心から、お前を愛してる。この世界の誰よりも、一生大切にする自信がある。俺と、結婚してくれ」


頬が染まったバルの顔をじっと見つめる。

いろんなことが思い出される。

瑠璃の森でのこと、城宮でのこと。



「・・・貴方はいつも私のためを思って行動してくれていた。優しくて、穏やかで、とても大好きよ。でも、貴方は私の大切なお兄さんなの。私は、幼い頃から想ってる方がいるわ。出来れば、その方とこの先の人生を歩んでいきたいと思ってる。だから、ご免なさい、バルの求婚には応えられないの」



そう告げたら、バルは暫く瞑目したあとこう言った。


「そうか――――きちんと振ってくれてありがとう。俺は、これで前に進める」


「バル、大好きよ。ありがとう」



バルの首に腕を巻き付け背伸びして、頬に唇を寄せた。



今までありがとう。

これからも、友人として、よろしくお願いします。


そんな、想いを込めて―――


・・・これが最後だ、抱き締めていいか・・・


囁くような声が聞こえ、無言で首を縦に振った。


ぎゅうぅと抱きしめられる肩が小刻みに震えているように感じる。

そこに、頬を埋めた。



―――バル・・・本当に、ありがとう―――








―――ズゴゴゴゴ・・・ズズ・・ン・・・――――


また、轟音が地面を揺らす。

セラヴィが国作りをしたはずなのに・・・。



「シエルリーヌ、こちらに来い」

「はい―――」



揺れ続ける大地。

城の向こうを見れば、山の木がずりずりと動いていた。

地滑りが起きている。




「感じたぞ、聞いたぞ!セラヴィが崩御したこと。ラヴル、貴様が跡目なのだろう!?急ぎ儀式をしろ!もう駄目だ、一刻の猶予もない。私が、官を務める!」



息を切らし走り込んで来たゾルグが叫ぶのにラヴルが応える。


「ゾルグ、諸国への対応はもう済んだのか」

「あぁ、十分だ!行くぞ!」



幸いに、会場の建物は未だ崩れていない。

セラヴィの守りのおかげなのだろうか。



黒塗りのドアを慎重に開けて入り込む。

がれきに埋もれた室内。

ラヴルに手を引かれ急いで祭壇の前に行き、向かい合って立った。



そこには、もう、セラヴィの姿はない・・・。