私の疑問に対し、ラヴルは静かに語り始めた。


「―――貴女を、テスタのオークションで見つけた時は、双子のうち、姉か妹か分かりかねていた。名を聞けば貴女は記憶を失っていたし、セラヴィが姉の方と逢っていたのは噂に聞いていた。いつか、奪いに来るだろうと考え咄嗟に檻を作っておいた。・・・どうやらそれは、いろんな意味で正解だったようだ」


「どうして、私がシエルリーヌだと、分かったのですか。クリスティナかも、しれないのに・・・」


何の確証もない。

私は記憶を失ったままだったし・・・もし、違っていたとしら、ラヴルはどうしていたの。

尋ねれば、ラヴルは胸ポケットから紙の束を取り出して渡してくれた。



「・・・それは、コレだ。この、メモ書きを読んだんだ。私の母は、カフカの国の者だ。王族でも何でもない、黒髪でもない、ただの人だった。私は、幼い頃にカフカでその母親と暮らしてたことがある」



ラヴルが渡してくれたそれは、私がラッツィオにいた時に見た記憶の夢を書き留めていたものだった。

それには、優しい男の子と出会って遊んだことが書かれている。



「これを、どうしてラヴルが持ってるの?」

「リリィが、私の元に運んできた」

「リリィが―――・・・これを・・・」



目の端に、白い綿毛のようなものが映る。

目を上げると、すぃーっと飛んできた白フクロウさんがラヴルの肩に止まった。


「え、白フクロウさん?」


―――ぴぃ―――


一鳴きして、ばさっと飛び立った白フクロウさんが矢のように飛んでいく。

そちらには覆面の男達が立っていた。

アリが運んだヒトたちが戻って来ていたのだ。

走って来たのか、皆ハァハァと肩で息をして、掌をこちらに向けている。


「くっ!ラヴル様!危ないですぞ!」

「チ―――――この・・・」


ぐいっと抱き寄せられて頭を抱えるようにされたあと、ラヴルが掌を敵に向けるのがわかった。


―――シュン――――


風切り音がおこり、覆面の男達が呻き声を出して順番に倒れていくのが腕の隙間から見えた。


「ぐぅ・・・ぅ・・」



黄金色の爪を布で拭いながら、バルが此方に歩いてくる。


「・・・バル、助けてくれてありがとう」

「全く、このような油断。貴方様らしくありませんな、ラヴル・ヴェスタ殿」


「バルリーク、すまん、恩に着る」


「・・・ラヴル・ヴェスタ、礼代わりに、彼女を少し借りていいか」

「―――あぁ、分かった」



一瞬止まって考える様子を見せたラヴルの腕の中から、バルの腕に渡される。


「え・・・バル?あの・・・」

「こっちに来てくれ、話がある」


暫く歩いたところで、向かい合って立った、皆はかなり遠くにいてこちらを見ている。

少しの間無言で私を見つめていたバルは、穏やかな微笑みを浮かべた後に口を開いた。


「お前の名は、シエルリーヌ、か―――」