「・・・セラヴィ・・・」


貴方は、最後まで立派な魔王だったわ・・・。

短い間だったけれど一緒に過ごした日々が思い出される。

怖くて意地悪だったけれど、愛情を感じたこともたくさんあった。

もっと、やりたいことが沢山あったはずなのに――――

さっきまで一緒にいたのに・・・こんなに簡単に、いなくなってしまうなんて―――


唇を噛んで涙が出るのを必死にこらえる。

今は、セラヴィの志を継いでこの世界を護らなくちゃいけないもの。

しっかりしなくちゃ。頑張らなくちゃ。

最後に残してくれた、この、あたたかな日の光りを絶えさせちゃいけないもの―――


そう思えど、足がまったく動かない。

体も・・・。



「ユリア・・・」



ラヴルが呼びかけて来るのが聞こえるけれど、声を出すこともできない。

振り返ることも、出来ない―――



「・・・ユリア・・・ユリア・・・・しっかりしろ――――――――シエルリーヌ」



・・・ぱきん・・・


何かが頭の中で弾ける音がした。



―――シエルリーヌ―――



『いいかい?絶対に真名は教えちゃいけないよ』


『えっとね・・ほんとは、ないしょなんだけどね・・・わたしのなまえは、シエルリーヌっていうんだよ。だれにもいっちゃだめだよ』

『シエルリーヌ、か。分かった―――これは、約束の、印だ』



『シェリー様!・・・貴様ら、何ということを!』



『姫様』

『シェル様、起きてください。今日もいい天気ですわ』



『シエル・・・姫よ、私を、父と呼べ』

『貴女の双子の姉君、クリスティナですよ』

『クリスティナよ、宜しくね』



『シエルや、クリスティナが病気なんだ。このままでは、不味い。父を助けると思って代わりに魔王と逢ってくれるか』

『でも、お父様、私には心に思うお方が―――』

『お願いよ、シェリー』

『クリスティナ・・・分かったわ』



『シェル様、このまま真っ直ぐ走ってお逃げ下さい』



頭の中に、次々と映像が浮かび上がっては消えていく。



「私の名前は、シエルリーヌ・・・クリスティナは、私の・・・双子の姉の名前・・・」



確認するように、何度も繰り返す。


私は、人の世でセラヴィと逢っていて・・・でも、セラヴィはクリスティナと逢ってると思っていて――――


「ラヴル・・・貴方なの?」


あの、約束の少年は、貴方だったの?


「シエルリーヌ。遅くなったが、幼き頃の約束を果たそう。私の迎えに応えてくれるか」



―――はい・・・と、頷きたい。

けれど、いろんな疑問が湧いてくる。

いつから、ラヴルは分かっていたの?



「名を思い出さないよう、記憶の檻を作ったのは、ラヴルなのですか?」



そんなもの、いつ、作ったの・・・もしかして、子供のころの、あの時に?