小刻みに揺れ続ける大地。


ケルンの街中を、荷車を引いたビリーが広場に向かって歩いていた。


―――気のせいか、海岸線が近くなってるぜ。


いつもより、海が近くにあるように見えた。

荷車を止めて海の方を望めば、海沿いの並木道が、ふ・・と消えたように見えた。


「ん??」


思わず目をぐいぐいと擦る。



幻かぁ?俺、夢を見てるのかぁ?

変な出来事の連続で、目がおかしくなったのかぁ?


出来りゃ見間違いであってほしいと、もう一度眼を開いてじっくりよく見れば、確かに、緑色の屋根の家の傍に海があるように見える。



―――ありゃ確か、もっと陸の方にあったはずじゃぁねぇか?


厄介になってるご婦人の家は、その3件ほど山側だ。

ぞわぞわとした恐怖に襲われる。

こりゃぁ思ったよりも大変なことになってるようだぜ・・・。


ぼんやりと立ち竦んでいると、荷車の方から呻き声が聞こえて来てハッとする。



「う・・・んーーーい・・イタイ―――んーー」

「ほら、頑張って!しっかりおし。赤ちゃんも頑張ってるんだよ」


腰のあたりを摩りつづけながらご婦人の励ます声が聞こえる。


そうだった!

モリーが産気づいたんだったぜ、しっかりしろよぉ!俺!!

父親になるんだろぉ!?


早いとこ広場行って医者さがさねぇと。

クルフ達と合流しねぇと。

苦しげに呻くモリーの声を聞いて自らの頬をパシンと叩いた。



「よっしゃぁ!!リキ入ったぜぇ。モリー、がんばれよぉ!」


荷車のガタツキを気遣いながらも急ぎ広場まで到着してキョロキョロと探せば、医者らしきヒトが少女を助手代わりにして手際よく手当てしてるのが目に入った。



「しっかりしろよ、このくらい傷は浅いぞ。動くな。ほら、可愛い子が見てるぞ?」

「ジーク殿、こちらも、後程お願い致します」

「あぁ、待ってろ。・・そこ、この消毒液で拭いてやってくれ、すぐに行く」



この医者は目がいくつもあるのだろうか・・・。

そう思えるほどの的確な治療指示ぶりだった。

素人の少女も上手く使って次々に治療をしていく。

この人なら―――――



「あのーー、すいません・・・」




忙しそうで、掛ける声が遠慮がちになる。


「何だ?怪我なら、どこだか詳しく言ってくれるか?」

「いや、怪我じゃねぇんで・・・その・・妻が産気づいてて―――」


「何?お産―――か?ちょっと、待て・・・あーっと、湯だ、湯が要るぞ。え―――っと、あー、そこのお嬢さん?」