バルの顔が霞んで見える。

怖くてホッとして懐かしくて心強くて。

いろんな思いが交錯して半ばパニックになりかける。



「もう大丈夫だ、安心しろ。あっちにはラヴル・ヴェスタが行ってる」

「ラヴルが――――?」


バルが顔を向けた方に目を向ければ、滲む視界に青い色に包まれたヒトが敵を次々に投げては捨てるのを腕を組んで静かに見守ってる姿が見えた。

次第にセラヴィの姿が現れる。

蹲ってるそれは、全く動く様子が無くて――――


「―――来い、ルルカ」



ラヴルの静かな声が聞こえてくる。

ルルカがセラヴィの体に近付いて行くのが見える。


―――あそこに行かなくちゃ―――


ふらふらと歩くのを、いつの間にか人型になったていたバルがガシッと支えてきた。


「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」


―――嫌・・・まさか・・・―――


足に力が入らない。

あそこまで行きたいのに。

震えるこの脚は、ちっとも前に進まない。


ルルカが沈痛な様子で首を横に振るのが見える。

ラヴルがセラヴィの元に座り込んで何事かを話してる。

バルに支えられながらそろそろと近付けば、セラヴィは私を見て薄く微笑んだ。



「セラヴィ・・・?」



傍に寄って手を握ると、驚くほどに冷たかった。

青くなった唇の端からは血が流れ出ている。



「・・・皮肉なものだな・・・命が消える直前に貴女から名を呼ばれるとは・・・」


「そんな・・・そんなこと、言わないで」


「分かっている・・・・ぐぅ・ぅ・・・クリスティナ・・もっと、よく顔を見せてくれ。声を、聞かせてくれ・・」



セラヴィの手が頬に髪に優しく触れてくる。

まるで、慈しむように。



「セラヴィ・・お願い。もうしゃべらないで。一緒に国を護るのでしょう、こんな病気、すぐに治すのよ。しっかりして――――」


「やはり貴女は・・情が強いな・・・。―――ラヴル・ヴェスタこっちへ・・・貴様に、全てを託す・・・これを・・・」


セラヴィの手から瑠璃色の光りの球が現れラヴルの掌に移せば、吸収されるように消えていった。



「―――私は、これより、魔王として最後の仕事をする。後、ここにいるラヴル・ヴェスタを魔王とすることを宣言する―――」


ふり絞ったような声が響き渡る。

セラヴィの表情に強い覚悟が色濃く表れてる。



「セラヴィ・・・貴様――――」


「最後―――何をするの?止めて、セラヴィ、一緒に外に出るのよ」


「・・・貴女には見せたくない・・・出て行け」



・・・何をするの・・・待って。そんなの、嫌よ・・・



「ユリア、来い」

「ラヴル・・離して・・駄目よ、一緒に―――」




「おい、急げ。壁が崩れ始めてるぞ」


ラヴルに抱き抱えられてどんどん離されていく。


ゆっくりと立ち上がり天を仰いで両の腕を広げるセラヴィの姿が映る。


手を伸ばしてありったけの声を出して呼びかける。






「セラヴィ――――!!」






黒塗りのドアがピッチリと閉められた・・・・