クククと喉の奥で笑う血走ったジンの目はギラギラと光りを放ち、最早正気だとは思えない顔つきになっている。


「だから私は、くっつけようとしたのだ、あの世でな・・・。見ろ!ワインの毒で魔王はフラフラだ!」


娘には後追いして貰おう!ヒャハハハハ!

狂ったように笑うジンをケルヴェスの落ち着いた一言が止める。


「残念でしたね。ワインの毒は、我等が阻止しましたよ」


カッと見開いた目がケルヴェスを見た後、そんな・・と呟いて額を押さえて俯いた。


「ジン殿・・すべて話せば、温情も、ありましょうぞ」


ルルカが傍に寄って穏やかに話しかければ、ジンはそのままの姿勢でクククククと笑った。


「ルルカよ、そんな馬鹿な・・・と、言うとでも思ったか?―――少女が入れた毒までは、知らないだろう?」

「何ですと!?少女が!?」


ルルカは急いでドアに駆け寄り会場の中のセラヴィを見た。

ジンの言うことが本当であれば大変なことになる。

確かに、セラヴィの顔色は悪く、明らかに体力は消耗している。

急いで闘いを止めなければ。

この世界も、魔王の命も滅んでしまう・・・・しかし、どうやって―――



「そうだ。魔王様とお妃さまが元気になる薬だ、と言って渡したら嬉しそうに頷いていたぞ。きっと、喜んでワインに混ぜたことだろう」


「貴様は!!何てことを――――!!」


光りの矢がケルヴェスから放たれ、それに気付いたジンは素早く横に飛びかわしながら両手を組んで光りの球を生み出しケルヴェスに放った。

互いの攻撃が壁に当たり爆音となって消えていく。

壁がパラパラと剥がれ落ち、辺りは焼け焦げた臭いが立ち込めた。



「どうする!?衛兵共は、我らが起こした偽の災害で右往左往してるぞ。今は、各国の重鎮も多いのだ。一人も戻って来ないぞ。魔王は、孤軍奮闘、だ!」



この分だとじきに会場も崩れ落ちるだろう、命は風前のともしび、貴様もな!

そう叫ぶように言い、ジンは再び光りの球を生み出す。


ケルヴェスは警戒しつつもそんなジンの顔を怪訝な思いで見た。

この男は、知らないのだろうか。



「偽の災害?何のことだ。今も感じるこの小刻みな大地の揺れ。貴様、今、何が起こってるのか知らないのか!?」


「なんだ・・・と―――?何を言っているんだ。この揺れは、隣の闘いの影響だろう。私の油断を誘う気なら、少々、甘かったな!」



ルルカが会場の中に慎重に入り込むのを横目に見、ケルヴェスはジンの攻撃をかわしながら矢を放った。

心の中で叫ぶ。


―――ルルカ殿、王のこと、頼みましたよ!