言い終わらないうちに、会場の外に出ていた。

黒いドアの向こうから闘いの音が聞こえてくる。

ヒインコは中に置いてきてしまった。


―――まったく、この世界の殿方はどなたも―――


「もうっ」


ポカポカと胸を叩いてアリを責める。


「許可もなく何てことをするの!私は」

「貴女様は!」


手首が掴まれ揺さぶられ、いつにない激しい口調が被さる。


「分かりませんか!貴女様があそこにい続ければ、却って魔王の負担になるのですよ!」

「それでも!あそこにいなくちゃいけないの。私は、彼と共に国を守ると決めたの。生死を一緒にする覚悟も、あるわ。お願い、アリ・・・行かせて」


想いを込めて、端正な顔をじっと見つめる。

儀式を完了させて、彼に本当の魔王になってもらわないと。

この世界は・・・貴方も・・・。

だから―――


「離して!」

「貴女様には、困りましたね・・・」



懸命に振り解こうと暴れ続けていたら、掴んでいた手首を離してくれた。


「ジーク殿にも“くれぐれも”と頼まれているんですが・・・」

「中に、大切な友達もいるの・・・助けなくちゃいけないわ」

「それは、ヒインコですか。確かに、置いてきてしまいました。ですが、彼女ならば大丈夫でしょう」

「・・・彼女?」



アリの語る言葉をオウム返しにしながら、きょろきょろして目に入った物を拾って抱えた。

ちょっと重いけれど、これならば、丁度いい。

きっと、私でも何とかなるわ、目的が果たせればそれでいいもの。



「あ・・・失礼しました。失言です、お気になさらぬよう。さて、困りましたね・・・貴女様は、それを、どうするおつもりですか」


「投げるのよ。邪魔をするのなら、私の決意は固いわ。相手が貴方でも」



出来るだけ低い声を出して戸惑うアリを睨みつけ、ヨロヨロとしながらも近付いた。

真剣さと迫力が伝わることを願って。


「全く、貴女様には参りますね―――」




―――と。

アリが肩を竦めてふと微笑んだ、丁度その同じ頃。


ユリアたちのいる所の丁度反対側。

その、会場の向こう側では、一つの闘いが始まろうとしていた。


ここは、ユリアがセラヴィと一緒に会場入りした方のドア。

城に繋がる方のものだ。


そこで、一人の男が会場の中を覗き込んでにやりと笑った。


白髪交じりの頭。

これは、ラッツィオの町外れの古びた屋敷に住んでいた、あの男だ。

中は、自身が可愛がって育てた賊達がセラヴィ王を攻撃している。

時々顔をしかめて胸に手をやる様は、随分と消耗しているように見えて嬉しくなる。

毒も効いているのだろう。



「よし、いいぞ。もう少しだ。もう少しで、積年の目的が果たせる」