場所は戻り会場の中。

「儀式を続けよ」と命じられた白髭さんは、ぐぅ・・と口ごもっていた。

何か言いたげに二人を交互にみて、息をひとつ吐いた。

ワインを運んできた少女は、苦しそうなセラヴィの様子を見てどうしていいか分からないようで、青ざめて泣きそうな表情をしてる。



「あ・・の・・・私は、何も――――」

「大丈夫よ、気にしないで。ほら、あなたはこれを片付けて」


握り締めたように持ったままのワイングラスを手から抜き取り少女に渡せば、失礼しますと小声で言って小走りに戻っていった。



様子がおかしいことに気付き始めた会場のヒトたちがざわめき始める。



「何か御座いましたか」

「大丈夫ですか」


騒がしく、大臣達が駆け寄ってくるのを見たセラヴィは、それを一言で退ける。



「―――静かにせよ―――」



苦しげに息を吐いていたセラヴィの呼吸がだんだん整っていって、何でも無いような風で、す・・と立つ。

騒がしい会場の中がしんと静まり、大臣達は静かに脇に下がった。



・・・本当に、大丈夫なのかしら・・・。


じーっと見つめる私の手を取り、セラヴィは向かい合うように誘導した。

表情は、いつも通りのものに思える。

儀式を続けられるみたいだけど・・・。



「では、魔王様。誓いの印を――――」


「クリスティナ・フィーレ・カフカ。そなたを我が妃とし、我が愛を注ぎ、守ることを誓う。今ここで我が妻となる証、新しき名を与える。これを、真名と致せ・・・」



肩に手が乗せられ、セラヴィの顔が近付いたので瞳を閉じた。

額に口づけが落とされたあとに、耳元で新しい名が告げられる。


・・・レイナ・・・


と。セラヴィの動きがぴたっと止まり、怪訝そうな風で私を見た。



「聞くが・・・何も、変わらんか?」

「?・・・はい?何のことですか」


首を傾げて見上げると、眉根を寄せた辛そうな表情があった。

どうか、したのだろうか。


その漆黒の瞳が、す、と動き宙を見据えると、呻くような声を出した。



「これは―――――く・・間にあわんか」

「あの・・・何が?」


「セラヴィ、来るぞ」


―――っ、あの声は・・・まさか、ここに来てるの―――?



―――ズズズズ・・・ン・・―――



「きゃあぁっ」


―――何!?何が起こったの!?


今の、声の主を考える間もなく大きな地響きと一緒に会場が揺れる。

天井からさがる大きなシャンデリアがガシャガシャと音を立てて、会場にいるヒト達が叫び声をあげた。



「あぁ、やばい、落ちるぞ。逃げろ!」

「助けて!」

「きゃぁぁっ」



ガシャーン・・・・派手な音を立ててシャンデリアが落ちる。


そこかしこから悲鳴が上がり、頭を抱えて座り込む女性やドアに向かって走り出す紳士、会場中がパニックに陥った。


「静かに。走らずゆっくり順番に出るんだ」

「みんな、こっちだ」


聞き覚えのある声が誘導を始めていた。


やっぱり、ここに、来てるの?