・・・ゴーン・・・ゴーン・・・

ケルンの街まで届く鐘の音。


婚儀が始まったぞ!と民の歓声が一斉に上がる。


「次の鐘が鳴った時が婚儀終了の合図だぞ!」


また、誰ともなく叫び声が上がり、それにもわーっと歓声が上がる。

ビリーも満面の笑みで頭の上で拍手をして、歓喜の声を上げた。

寒い中、広場に集まったヒト達は、白い息を吐きながら城の方を眺めていた。

ビリーたちも、その輪の中にいる。

身重なモリーと年老いた爺様は大事を取ってご婦人と一緒に家にいるが、クルフ一家とビリーは祭り気分を存分に味わっていた。

多くの者は正装をして、手に何かを持っている。

ある者は花を、ある者は酒を持っていた。


「あんたがた、それ大事に持ってっけど、どうするんだ?後で自分で飲むのかぁ?」


不思議に思って酒を持ったふくよかな夫人に声を掛ければ、にっこりと笑って答えてくれた。


「やだわ、あんた。違うわよぉ。これは、贈り物にするのよ!」


すべての儀式が終われば城の門が開かれ、魔王と妃が馬車に乗ってお披露目にまわるから、その時衛兵に渡すのだと教えてくれた。


「でも、そんなの。魔王様はのんじゃくれねぇだろう?」

「勿論さ!だけどね、魔王様達が飲んでくれなくてもいいんだよ。城の誰かが愉しんでくれれば私はそれでいいのさ!」


夫人は大きな声でそう言ってからからと笑った。


「へぇ・・そんなもんかねぇ」


と、ビリーが感心した様な声を出したその頃。

家にいるモリーは、ご婦人と一緒に食事の支度をしていた。

今夜はご馳走。

ご婦人と一緒に果物の皮を剥いては細かく刻む。大きなタルト型にはパイシートが敷かれている。

今から、今夜食べる大きなフルーツパイを作るのだ。


「すみません、こんなに良くしていただいて・・・本当に、ありがとうございます」


モリーが改めてお礼を言えば、ご婦人は首を横に振った。


「私はね、いつも一人ですの。こんな目出たい日だと言うのに、一人寂しく食事をするところでしたわ。だから、貴女方が一緒に過ごしてくれて、私はとても嬉しいんですのよ。いっそのこと、出産するまでいてくれて構わないんですのよ」



もうすぐでしょう?と言ってご婦人はお腹をさすった。

嬉しそうに笑うモリーと優しく微笑むご婦人。



家の中で、外で。

街をあげて祝いの気持ちが表される。



その陰で、ず・・・ん・・と地鳴りが響いた。


祭り気分に夢中になり誰も気づかないその不気味な音は、海側の大地が小さく裂けたものだった。

静かに、その裂け目は広がっていく―――