“婚儀の後、セラヴィ王様より貴女様に王妃の戴冠がなされます。そののち護国の儀が行われ、民へのお披露目となります”


昨日部屋に訪れてさらっとそう言った大臣は、これが細かいスケジュールです。お目通しを。と紙の束を置いていったのだ。

・・・随分、細かいのね・・・

苦労しながらも文字がびっしりと埋められたそれを懸命に読んでいると、その後に来たセラヴィに「このようなもの必要ない、貴女は笑って立ってればいい」と紙の束を奪われて、あろうことか、ぽんっと一瞬で燃やされてしまったのだ。

結局、細かい動きは分からないまま。

不安でいっぱいになる。



「支度は出来たか―――」


部屋の中に重低音の声が響く。

ぱっと現れたセラヴィを見て、侍女たちがあわてふためいて隅に下がった。


「ふむ、実に美しい。行くぞ」


つかつかと近付いてきて細めた目で満足げに一言漏らしたセラヴィに、すっと抱き上げられて例の如くの暗闇に入れられた。

毎度のことながら、うんざりする。


―――もしかして。

この外出の仕方は一生変わらないのかしら―――


婚儀が終わって落ち着いたら、絶対に改善を求めようと心に決めて、セラヴィの隣に立つ。

目の前には黒地に金の装飾が施された大きなドアがある。

きっと、この向こうが婚儀の会場なのだろう。


女性達の綺麗な歌声が聞こえてくると、大臣らしきヒトの恭しい手つきでドアがゆっくりと開かれた。

セラヴィの腕に掴まってしずしずと進めば、集まったヒト達から感嘆とも聞こえるどよめきが起こった。

誰が来てるのか確認できる余裕なんて、全くない。

伏し目がちにして、ゆっくりと歩いてくれてるセラヴィにひたすらついていった。

歌声が止み、黒い衣装を着た白髭のお方の前に並べば、祝詞のようなものを謳い始めた。

古語のようで、何を言ってるのか全く聴きとれない。

両の腕を広げて天を仰ぐような仕草を見せた後、鐘の音が2回、鳴り響いた。


「では、誓いの杯を―――」


黒のドレスを着たかわいらしい少女がトレイに乗せたワイングラスを持ってきて、先ずはセラヴィに差し出した。

グラスを受け取り一口含んだセラヴィの表情が瞬間強張り、その後すぐにぐいっと全部飲み干してしまった。


白髭さんが動揺した声を出す。



「怖れながら魔王様、すべて飲まれてしまっては、その―――代わりの物を」

「・・・その必要は、ない」


胸を押さえて、喉の奥から絞り出すような声が出される。


「まさか、具合が悪いのですか?」


下から覗き込むようにして訊ねる。

苦しげな表情に見えるのは、気のせいじゃない。


「む、大丈夫だ。貴女は心配するな」

「でも―――」

「何でも無いと言っている。・・・貴様は、儀式を進めよ」