婚儀の日が来た。

祝砲の光りの矢が、空に向かって放たれる。

それは雪を降らせる雲を薙ぎ払い、城の上空に青空を見せた。

久々に青い空が見え、日の光が当たる城は雪化粧も相まって荘厳さが増して見える。

続々と集まってくる招待客達は、うっすらと降り積もった雪道をそろそろと歩き、城の屋根と緑濃い山肌に白い色が混じる景色を楽しんでいた。

気分も良く、目に映るものはみんな見目美しい。

まるで魔王が国全体を飾り付けたかのように思う。


『耳』達の誘導も効果的に働いてはいたが「魔王様は、この日のために降らせたのだろう。粋なことをなさる」そう考える人がほとんどだった。





「ふむ・・上手く誘導できたものだな」


城に向かう馬車の中で、ラヴルはひとりごちた。

ルミナの街にも、雪は舞い落ちて来ていた。

『次期王に』と、現王から言われていたラヴルには、大地の鼓動を少しだけ感じ取ることが出来ていた。


急激に進む崩れ。

空気の流れはケルンを中心として渦を巻いているかのよう。

こうしていても、もう幾分の猶予もないように感じられる。



「まさか、魔王よりも、先だとはな―――」



流石、歴代最強と謂われるだけのことはあるか。


“―――待ってる”


目を閉じれば、自分を見つめるきらきらとした大きな黒い瞳が鮮明に浮かぶ。


「―――ユリア」


随分と待たせた自覚はあるが、自らも待っていたのだ。

だが、もし彼女が――――

城を睨み、唇を引き結ぶ。

決断の時が、すぐそこに、迫る―――――







華やいだ装いの淑女に盛装をした紳士。

会場の中で、国の内外から集まり来た貴族方は互いに挨拶を交わしながら、今か今かと儀式の時を待っていた。

皆は晴れやかな顔をしている。

ごく、一部の者たちを除いて―――




会場に人が集まり始めたその頃、ユリアは部屋の中で5人もの侍女に取り囲まれていた。

くすぐったく感じて少しでも身じろげば、「動かないで下さい」とピシャリと言われて人形のように固まる努力をする。


「寒く、御座いませんか?」

「重く、御座いませんか?」

「はい。大丈夫です」



顔を動かさずに質問に答えるのは、結構しんどい。


魔王の花嫁。

鏡を見れば、シンプルな黒い衣装に煌く宝石類が目映く映えてて、我ながらにとても綺麗に見える。



―――とうとう、この日が来てしまったわ。

私は、今日魔王セラヴィの妃になる―――・・・



前日に式次第を大臣につたえられたときには全く実感がわいてこなかったけれど、こうして黒いドレスを身に着ければどうにも緊張感に包まれる。


―――婚儀の練習とか、全然してないけれど・・・いいのかしら―――?