―――とりあえず、早くモリーたちを休ませてやりてぇし、宿を探してくるかぁ。


荷車を隅に避けてクルフに番を任せて宿を探しに出た。

その頭に雪がちらちらと舞い落ちる。

つい昨日までは青空を見せていたこの地にも、薄墨色の雲が侵食するように迫って来ていた。

吹きすさぶ風にのり、雪がここまで届きはじめたのだ。


商店には、厚着をしてありったけの布を体中に巻いたご婦人方が、来る日に備えてご馳走の材料を買い込む姿が多く見られる。

凍えた手をすり合わせながらも威勢良い声を出して店をもり立てる店主たち。

異常な寒さに震えながらも、民は皆わくわくと心浮き立たせていた。

異変に気づくより、目出度い気分のが先立つ。


流石は都ケルン。繁華街だけでなく街の至る所がきらきらと光っていた。

端近に居並ぶ屋敷の軒先には、花や彫り物で趣向を凝らした飾り物が惜しげもなく提げられ、門には祝い時に出される三色の旗が掲げられていた。

まだ昼だというのに、かがり火を焚いてるところもある。

道は綺麗に掃き清められていて枯れ葉一枚と落ちていない。



その中を歩くビリーは、焦り途方にくれていた。

宿はどこも一杯で、泊まれるところは一件もなかった。

ここなら、と思ったボロい宿まで満杯だったのだ。



「あー、どーすっかなぁ・・・」



頭をバリボリと掻いて呟く。

とりあえず、モリーのとこに戻って話し合うしかねぇな・・・。



「―――それなら、隣街まで行くしかないわね」


お腹をさすりながらモリーが言う。

かなり疲れた顔してる。爺様もだ。


「けど、モリー大丈夫かぁ?隣街までは遠いぜ」



「あら、貴方達、どうかなさったの?」



声がした方に振り返れば、品のいいご婦人が立っていた。

買い物途中のようで、籠の中には少量の食材が入っている。



「俺たちナルタから来たんだが、宿がどこも一杯で泊まれねぇんだ。仕方ねぇから、今から隣街まで行くところさ」


クルフが説明するとご婦人は荷車を見てにっこりと笑った。


「今からだと夜になってしまいますわ。家にいらっしゃいな。宿ほどではありませんけど、精一杯歓迎するわ」

「・・・でも、この人数です。迷惑ではありませんか」


モリーが遠慮がちに言えば、ご婦人は首を横に振った。


「いいんですのよ。賑やかになって私も嬉しいわ。でも、食材を買いたさなければいけないわね。荷車に、乗せて下さる?」

「本当に、いいのかい!?ありがてぇなぁ・・・荷車くらい、いくらでも、どーんと使ってくれ」



見ず知らずのご婦人。

思わぬ優しさに触れたビリーたちはひたすら礼を言い、このあとご婦人と一緒に買い物を楽しみ家に向かった。