ヒインコを放そうか、迷う。

こんなに小さな体なんだもの、寒さに耐えられるのか心配だわ。

けれど、ポケットの中から伝わってくる動きは早く出たがってるように思う。

仕方ないわね・・・私に自由を縛る権利はないもの。


ブルッと震えながら毛布を拾い畳んで脇に抱えると、暖かな空気がふわりと頬を撫でた。

それは、開き始めた門から吹き込んできていた。

これなら、ヒインコも大丈夫そうな暖かに思える。



門の向こう側にポケットから出した手を伸ばせば、温かな空気が肌に伝わってきた。



「向こうは、あたたかいのね・・・」



―――寂しさを癒してくれて、ありがとう。

きっと、元気でいてね―――


てのひらの上のぬくもりが放れていく。

どうやら、元気に飛び立ったみたい。

戻した手をじっと見つめる。



また、いつか会いたい。

その為にも、私は、頑張らないといけない。

魔王の妃として。




「お道具はあるかしら・・・」と呟けば、セラヴィは隅の方を指差した。

そこに箒とバケツが置いてある。



「・・・あれは、前回に置いたものだ」

「え・・・前に?」



ということは―――・・・。


そうだったのね。少しは、私の声も届いていたのだわ。


それなら―――



「―――貴方は、箒をお願いします」



微妙な表情を浮かべて戸惑うセラヴィに、無理矢理箒を持たせた。

普段はとても怖い貴方も、今は吸血するだけのヒト。

同等に話せるのは今しかない、存分に味あわなくちゃ。



「忙しいのでしょう?二人でやれば、早いわ。・・・そうね、こちらの隅から始めましょう―――」


む・・と呻き声を出した棒立ちなセラヴィの背中を、ぐいぐいと押す。

箒と部屋を交互に眺めるセラヴィににっこりと笑いかける。



―――使用人を呼んだら駄目です。

一緒に頑張りましょう。

これからは二人で協力して国を守っていくのでしょう?

貴方の漏らした場所、気付かない箇所は、私がしっかり補うわ。

だから、思うがままに進めばいいわ。

私は、そのあとを清めながらついていくから―――