「あの時、貴方は何もしてなかったみたいですから。あの部屋も定期的に手入れをした方がいいわ、とてもカビ臭かったもの」


そう。

あのとき門を潜り戻った私が最初に目にしたのは、こちらをじっと睨み佇むセラヴィの姿だったのだ。

ずっと、あの場から動いていないようだったもの。



『む、私も行く』

「―――はい?」


貴方も?何で?


ぽぽんと灯りが点き、セラヴィの姿が現れてすとんと落ちた体は腕の中にしっかりとおさめられた。

眉間にシワを寄せた恐ろしい顔が目に入ると同時に、体に巻き付いてる布が見えて毎度おなじみな毛布だと分かった。



「内密に一人で階段を使うとは何事だ。全くいい度胸をしている。・・・許可なくば、ここは閉塞するのだぞ」


知らんのか、とぶつぶつ言いながら階段をずんずん下りていくセラヴィ。



――ヘイソク?――


それって、ふさがるってこと?

そんな恐ろしいこと、誰も教えてくれなかったし貴方も言わなかったじゃない。

知ってたら、無理矢理でも衛兵についてきてもらったのに。

やっぱり、貴方はあの男の子じゃないわ。

彼は、絶対に、こんなに意地悪じゃないもの。


「待って。一人で十分です、許可さえくださればいいのですから・・・貴方は、どうぞお仕事に戻って下さい」

「駄目だ。貴女の無謀さを私の他に誰が止められる。実に、危険だ。今後、出掛けたくば私に言え」

「そんなことは、」


この先の言葉、貴方も迷惑でしょう?は、声になって出なかった。

ピタリと止まったセラヴィの視線の先に、古びた平らかなドアがあったのだ。

片手でしっかり抱え直され、ぬめっとした黒い幕を潜りぬければ、前と同じにカビ臭さが鼻をついて顔をしかめる。



「ふむ、確かに手入れは必要だ。・・・さぁ、手早く済ませよ。私は忙しい」


すとん。と部屋の真ん中に下ろされる。

腕を組んで佇む様子は、手伝う気持など皆無のよう。

忙しいなら衛兵に命じて戻ればいいのに、何のために一緒に来たのかしら。


魔力が消えたためか、体に巻き付いていた毛布ははらりと剥がれて床に落ちた。

厚着をしていても、ここは寒くて震えてしまう。

きっと、外の気温はこれより低いのだろう。

ここがこうなら、森の中はどう―――