同時に、ふわりとした浮遊感に襲われる。

急に足が浮いてしまったおかげでバランスが崩れて、あまりの恐怖に、声にならない息が出た。


・・・もしかして、もしかしなくても。

セラヴィの見えない衛兵が働いてるのよね、これは・・・


コクンと喉をならす。

真っ暗。

ふわふわと揺れる感覚。

自分の体が上を向いてるのか動いてるのかその場に留まってるのかも判断がつかない。


・・・このまま部屋まで戻されるのかも。

それとも、真っ逆さまに・・・


一瞬の間にこの先の最悪な事態をあれこれ想像してしまい、声も出せずにただ震えながら身を縮めていると、セラヴィのものであろう声がした。



『―――捕縛―――』


狭い空間。

地を這うような重低音の声が何とも怖ろしげに響いて鼓膜を揺らす。



―――ホバク?―――


その言葉の意味を理解するより先に、大きな布のようなものがくるるんと巻き付いてきた。

かろうじて顔は出てるものの手脚が全く動かせなくなって恐怖心がいや増す。



『・・・貴女は、一人で何処に行くつもりだ』


「・・・ティアラの部屋に行くのです。というか、これを取って下さい。とても怖いわ」



平静を装おうにも声が震える。


『そこに何をしに行く』

「何って、あの・・・」


布を取って欲しいという願いは華麗に無視されムカッとするものの、不測の事態での問いかけに出かけた言葉が詰まる。

おかげで恐怖心は薄れたけどその分焦りが生まれた。

言い訳なんて、何も考えていない。

それに、ぴっちりと巻き付いた布はあまり余裕がなくて、ポケットの中いるあのコが心配でたまらない。

拘束を緩めるべく何度か腕に力を入れていたら、足の付け根辺りがモゾモゾと蠢いた。

なんとか動く余裕ができたみたい。

良かった・・とホッとするのもつかの間に、再びセラヴィの恐ろしい声がした。

今度のは、怒りも含まれてるように感じる。



『あそこで何がしたいのだ』

「あ、の・・・」

『ふむ、大した用でないなら、部屋に戻れ』


「あ―――待って。違います・・お部屋の掃除をしようと思ったのです」


空気の流れを感じる。体が、動かされているよう。

このまま戻されてしまうなんて、嫌。

せっかくここまで来たのに。


『・・・掃除?』



怪訝そうな声が出され、ぴたり、と肌に感じる空気の流れが止まった。