一人で部屋を出るのは、初めて。

ドキドキする心臓を宥め、頭を下げて控えの姿勢を取る衛兵の間を通り、颯爽と廊下に出た。

は、良いけれど・・・ハッと気付く。


そういえば。

階段を出現させる術を教えてもらってない。

ティアラには何時でもここに来てねと言われたけど、セラヴィには何も言われていない。

くるんと振り返って尋ねてみる。



「・・・貴方達は、階段を出せますか?」

「は――――?」


目を丸くしてこちらを見た後に互いに顔を見つめ合う二人は、随分と怪訝そうな表情をしてる。

首を捻ったまま暫く何事かを考えるそぶりをし、一人がこちらを見てにっこりと笑った。


「―――はい。勿論存じております。そこまで一緒に参りましょう」


衛兵の後をついていくと、壁の途中に、ぽっかりと穴が開いてるのが見えた。

セラヴィと一緒の時と違って最初から灯りも点いていてとても明るい。

ひんやりとした空気が下から上がってきて首筋をゆっくりと撫でていく。

堪らずにぶるると震えると、衛兵が大丈夫ですか?と聞いてきた。



「やっぱり、下は寒いのかしら・・・?」

「ここがこうなのであれば、外はこれ以上に寒いのでしょう。階段は・・・下りはじめれば、貴女様なら大丈夫ですよ」



・・・下りはじめれば、私なら?・・・



衛兵の言葉に、何だか不穏な雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。

もしかしたら、印がないと途中で階段が無くなってしまうのかも。

意地悪なセラヴィのことだもの、十分あり得る。

一緒に行ってもらった方がいいのかしら・・。

ちらっと見ると、衛兵は深深と頭を下げていた。



「これ以上は分が過ぎます。どうぞ、行ってらっしゃいませ」

「・・・行ってきます。すぐに戻ります」


というか、分が過ぎるって、貴方は私の衛兵ではないの?

そんな疑問がわくけれどぐっと飲み込み、意を決して下り始める。



・・・硬質な足音が階段の中に小さく響く。

進むにつれて、何だか灯りが小さく暗くなってるような気がする。

脚を速めたくても、支えの腕がなければどうにも怖い。

まわりにある壁は見るからにつるんとしていて、支えるどころか、却って転倒を助長しそうに思う。

ドレスの裾を上げて薄暗い中を注意深くそろそろと下りていると、ふ・・と灯りが消ええてしまった。