いくつの国があるのか知らないけれど、生きとし生けるものすべての命は王一人の双肩にかかってるだなんて、とんでもない重責を担ってると思う。

強いとはいえ、心も体も癒しが必要だわ。

あの時セラヴィは、ティアラの部屋に戻った私の手にある靴と傷だらけの足を見て、開口一番こう言った。



“何故裸足なのだ。貴女は人なのだぞ。靴という物が何故あるのか知らんのか”


獣ではないのだぞ、ぶつぶつ言いながらもすぐさま傷を治して、何をして来たのかも聞かずにそのまま、セラヴィは私を強く抱きしめた。


“よく、戻った。道程は辛くなかったか。この世界で暮らしていくならば、貴女には私が必要だ。分かるか、このようにか弱いのだ。それ以上に、この世界には貴女が必要なのだ。この私同様に。我が愛を受けよ。クリスティナ、私を思い出せ”


気候の悪化、崩れが進む国土。

川のあるあの場所で、寒風が吹く中セラヴィの口から語られたこと一語一句が頭の中で再生される。



―――必要―――


今となれば、この言葉の意味がよく分かる。

けれど、私にはティアラのような力はない。

この、濃く甘いと言われる血しかない―――


今までに知り合った皆の顔が思い浮かんでは消えていく。

狼族の方たち。

記憶をなくし祖国もなくした私には、彼等みんなが家族のようなもの。

大切なあのヒト達が危険に晒されてしまうなんて、そんなことを考えるのも嫌。


“皆を守る”


私は、私の出来る精一杯のことをしなければいけないわ。

例え力不足だとしても、まずは、やってみないと―――

心中の奥底に想いを隠して。

だから―――――・・・



思考から戻れば、つぶらな瞳がじーっとこちらを見つめてるのが目に入った。

いつもみたいな囀りがなくて、とても心配げに見える。

私があんなことを呟いたからよね、きっと・・・。

守らなくちゃいけないと思う、このコも皆も、この世界も。

大切な、あの方も―――



「変なこと言ってごめんね。あなたの自由な翼も命も、必ず魔王が守ってくれるから心配しなくていいのよ。ほら、ここに。ポケットの中においで。行きましょう」



てのひらを差し出して誘導すると、素直にポケットの中にもぐっていった。

ドアを開けて衛兵に伝える。



「ティアラの部屋に行きます」