―――はやくあかるくならないかな。

どうして、くらいよるがくるのかな。

あかるくなれば、とりのこえがする。

ちっちゃいどうぶつだって、おきてくるもん。

そしたら、あのこたちはきっと、わたしとあそんでくれるもん―――


朝までの我慢。

毎晩、そんな風に自分を励ましながら膝を抱えて過ごしているのだ。

明るくなるまで。ずっと―――


ふらり・・と意識が遠くなって倒れそうになる。

それを、男の子の腕がしっかりと支えてくれた。



「こら、眠っちゃ駄目だよ。ほら、その妖精の種を植えるんだろう。目を開けて」


揺さぶられながらぼんやりと思う。



―――そうだった。

たね、うえなくちゃいけないんだった。

はやくうえないと、またなくなっちゃうもん―――



降って湧いた危機感に、重い瞼を一生懸命に開けるどりょくをする。

と、ぽやぁとする視界に男の子のやさしい笑顔があった。


頭を撫でてもらってとても嬉しくなる―――――・・・






―――約束の印―――



・・・黒い瞳に黒い髪。

とても不思議な力。

吸血族の方だと言われれば、そうだと納得できる。




“大きくなったら、迎えに来る”



彼が、生きてるなんて――――

優しい笑顔。

幼い私の心に温かな灯りをともしてくれた男の子。


小さくて、脆くて壊れやすい心は、あの後のあまりの辛さと哀しさに負けて川に入ってしまった。

けれど、救いあげられて城で生活を始めた私にとっては、あの約束は強い心の支えになってた筈だわ。

時が経って少女になっても、彼を待ち続けていたのだから。



男の子は、気まぐれにした約束かもしれない。

ただの同情かもしれない。

印がなんなのかは分からない。

もう、約束自体忘れてしまってるかもしれない。


けれど。

彼が誰なのかわかったら、もしも会うことが出来たのなら、この感謝の気持ちを伝えたいと思うのだ。


―――孤独な私に、希望をありがとう・・・って――――




ふと思い立って、宝石箱を取り出した。

細かな金細工で飾られた蓋を開ければ、不可抗力にも持って来てしまったあの指輪が入っている。

光にあたりキラキラと輝く石を見ると、胸がきゅぅと締め付けられる。



―――あの花は、今でも咲いているのかしら―――


言葉とともに、自然に頭の中に思い浮かんだのは、いつか夢に出てきた一面に咲く青い花の群れ。



“今年も、綺麗に咲きました”


もしかしたら。

儚い花弁の・・・あの美しい花が、妖精の・・・。


だとしたら、私は、毎年セリンドルの森に見に行ってたんだわ。

エリスと一緒に。

彼に、会えるのも期待しながら―――



“クリスティナ。私を、思い出せ”



私の頬に触れながら出されたセラヴィの声は、消え入りそうに小さかった。


まさか――――まさかとは思うけれど・・・。

彼は・・・セラヴィ、なの?