―――・・・その方は、吸血族の王族のようですよ。

・・・誰なのか、じきに分かると思いましてよ・・・――――



創始の森から帰った夜。

知らされたいくつかの事実を思い返して、小さな興奮を覚えつつ眠りについた私は、再び記憶の夢を見る事が出来た。

幼い私と、あの優しい男の子の夢を――――・・・






――――――・・・穏やかな風が吹いて、周りの草がさわさわと動いてる。

ここは、セリンドルの森の草原―――?


小さな手の中には、妖精さんからもらった種がしっかりと握られてる。

向かいあって立ってる男の子の黒髪はサラサラと揺れてて、黒い瞳はきらきらと輝いていた。

それをじっと見つめたままの私は、薄い唇から紡がれる言葉を一生懸命に理解しようとしていた。



「―――わかったね、待ってて。うん―――そうだ、な・・・約束の印を残していくよ」


何を思いついたのか、男の子の優しい笑顔が近づいてくる。

何のことだか分からなくて、じっと顔を凝視したままで首を傾げて尋ねた。


「やくそくの、しるし?」

それって、なに?

「守る印だ。目をつむって、顔を上げて前を向いてて」



笑顔が消えて、急に真剣な顔つきになった男の子を見て、小さな胸に不安がよぎった。

印というものは、消えないようにペンで書いたり縫い込んだりするものだ。


「それって・・・いたくないの?」


男の子は好きだけど、痛いのは嫌だ。

おずおずと聞くと、目を見開いたあとにくすくすと笑った。



「まだやっとことないから下手だけど。痛くしないから大丈夫だよ、安心して。ほら、目を閉じて」

「―――うん、わかった。えっと・・・こうでいいの?」


目をぎゅぅっと瞑って前を向く努力をする。

何をされるのかわかんなくて怖いけど、この子なら信用できると思った。


「そう。いい子だね、そのまま。じっとして動かないで―――」


何かが額にあてられて、じんわりと体が温かくなる感覚がした。

頭も体もほわほわと浮かび上がるように軽くなって、なんだかすごく気持ちがいい。



―――ねむい・・・このまま、ねむってもいい?

そうしたら、もうすこし、いっしょにいてくれる?

よる、おはなししてくれるひと、だれもいないの。

だから、いつも、ねむれないの―――



おばば様は、私が眠るまでいろんなお話をしてくれた。

誰もいない今は、ベッドに入っても寂しくて冷たくて寒くてとても辛い。

がらんどうの部屋。

隙間風の音だけが聞こえて来る独りぼっちの夜。

怖くて、哀しくて。

いつもちっとも眠くならなくて。