一度血を口にした際上がった気と力はすでに費えている。

確かに、今の私には捧げが必要であり、誰に言われずとも自らが一番に分かっていることだ。

再度、彼女の首筋に牙を埋めれば力は増すが、国作りを行えるほどではない。

それにいまだ契約を交わしていないのだ、今の状態で吸血を行えば無意識にも力の補いが働き生気をも吸い取ってしまいかねん。

再び命の危険が彼女を襲う。

やはり・・・・―――――――



「ふむ・・7日後、儀式を執り行う。国作りは儀式終了後速やかに行う。案ずるな、魔界は元に戻る」



恐らく承諾は得られんだろう。

だが、契約を交わし身を愛し我がものとすれば、必ず後には心も我がモノとなろう。


崩れた国土が戻れば、今まで以上に良き世界になる。

人の世で愛を育んだ時より微妙に変化している彼女の気は、恐らく記憶をなくしたことが原因だろう。

情は深く強く、大きな瞳でこちらを睨みつけて怒る様はいつ見ても大変愛らしい。

小さき鳥の存在を懸命に隠すところも、それを私が気付いておらぬと思うところも、何とも人らしく、心より愛しいと思う。


柔らかく透明で清らかな気。

奥底に秘めた力は、本人は全く気付いておらん。

習熟してなければ出し方も知らんのだろう。

今の時代、意識して出す必要もないが。

あれらは魔の者には到底纏えんもの。

世界を創った初代が同族ではなく、人の娘を妃に選んだ理由がよく分かるというものだな。



「・・・ふれを出せ。“王は妃を娶る”と。文章は、大臣。貴様に任せる」



ぱっと顔を上げ、こちらを見た真摯にも悲壮感漂う大臣の表情が、みるみるうちに晴れやかなものに変わっていく。



「それは・・・では、とうとう―――――御意。お任せ下さい。すぐに各方面に指示を出し手配を致します」



踵を返し、いそいそと部屋を出ていく大臣を見送り、遠くはルミナの空を思い浮かべる。

その下に住むは、言わずと知れた最大の好敵手、ラヴル。



ラヴルよ、何もしてこぬならば、遠きルミナから見てるがいい。

彼女には二度と逢わせんし触れさせん。


貴様が白色と表現したものを、私ならばもっと様々に生かすことが出来るのだ。

愛を注ぎ入れ、蘇った我が気と合わせれば加護の力は歴代最強のものとなるだろう。

ゆるぎない世界がつくられる。



“セラヴィ様”


微笑んで我が名を呼ぶ愛らしい声と微笑み―――――


時が戻せればどんなに良いかと思うが、こればかりは仕様がない。



―――クリスティナ。

あの頃の貴女に、戻れ。

期は、そこまで来ているのだ。


クリスティナ――――