「ユリア様、今夜の食事はラヴル様が外で御一緒に、とのことで御座います。此方にお着替えになってお待ち下さい」

と言って差し出してきたのは、黒いサラサラとした布の綺麗なドレス。

布に何が織り込まれているのか、光りに当たるとキラキラと煌いている。


ユリアはぴらっと広げて体に当ててみた。

線が細くて、ノースリーブで、襟ぐりが広くて、なんだかとっても色っぽいような・・・・。

こんなのを着たら、体の線がはっきりと分かってしまいそう。


「それはラヴル様がお選びになりました。今夜はそれを着て出かけるそうで御座いますので、お早くお着替えを」


―――これを着るの・・・?

こんな色っぽいドレス。私にはとても無理だわ。

それに、出かけるって何処に行くのかしら?


「あの・・・ナーダ、これ・・・私には」

―――コンコン!


『ユリア様!入ります!』


廊下からツバキの叫ぶような声がしたと思ったら、ドアがバンッと大きな音を立てて開かれた。

ナーダがすかさず入口の方をじろっと睨んでいる。

それを見て、ツバキがドアのノブを持ったまま首をすくめて“しまった”と言う顔をしていた。

その後ろにラヴルが静かに立っている。


「ツバキ様、ユリア様はまだ着替えておりません。出て行って下さい。ラヴル様も。どうぞ出て行って下さい」


腰に手を当ててきっぱりと言うナーダの声を無視し、ラヴルはスタスタと部屋の中を進み、黒いドレスを持ってぼんやりとしてるユリアの傍に近付いた。

やっぱり夜のラヴルは、驚くほどに足音を立てない。



「ユリア、まだ着替えてないのか。それが気に入らないのか?」


「そうではなくて・・・あの、こんな大人っぽいドレス・・・私に似合うとは思えません」


頬を染めて、今にも泣き出しそうな表情のユリア。

ナーダのように背が高くてスタイルが良ければ似合うだろうけど、私は背も高くないし、胸もない・・・。


「何言っている。ユリアにはそれが似合うはずだ。一人で着替えられないのなら―――」


ユリアの肩にそっと左手が置かれ、背中にもう一方の腕がまわり、ファスナーの金具に触れた。


「―――私が、着替えさせてやろうか?」