ライキはしきりに周りを見ている。

何がそうさせているのか、少し焦っているようにも見える。


「ラヴルは自由にしてていいと言ったそうなの。ここのことはナーダに薦められて。綺麗な庭だから見てくるといいって。聞いた通り、とても綺麗。お花が生き生きしてるもの。ライキは腕がいいのね」


そう言うと、ライキの緊張した様な表情が途端に崩れ、頭を掻きながらにっこりと笑った。


「ナーダに?そうかぁ。綺麗かぁ―――そんなに褒められても・・・・お前良い奴だな。うん、分かった。そんな良い奴のお前に、俺が忠告してやる。お前、外に出ない方がいいぞ」


「え・・・どうしてなの?私このお庭が気に入ったの。だから好きな時にまた見に来たいわ」


「どうしてって・・・そりゃぁお前―――」


ライキは言いかけて口をキュッと噤んだ。

目の前にいるのはラヴル様が連れてきた人間の美しい娘。

体から放たれる匂いから、ラヴル様の寵愛を受け、お手付きになったことはすぐ分かる。

だが、この娘が放つ匂いは強く、それはとても甘くて香しい。

この屋敷には結界が貼ってあるとはいえ、他の奴がいつ目をつけるとも限らない。

それに、あの方に目をつけられると、とても厄介なことになる。

そんなのが外に出てるとは―――


「くそっ、ナーダの奴・・・・上手いことやりやがる・・・俺を巻き込みやがって」


ライキはユリアの黒い瞳から逃げるように視線を外していた。

腰に手を当てて俯き、何やらぶつぶつ言っている。

そんなライキの顔を、覗き込むようにしてユリアは見ていた。

ライキが小声でぶつぶつと呟いているのは分かるが、何を言ってるのかまでは分からない。


―――外に出るなって、ここに2度と来ちゃいけないってことかしら・・・。



「仕方ないなぁ。お前、いい奴だしなぁ・・・。よし、分かった。ラヴル様やツバキほど強くないけど、お前に何かあれば俺が守ってやる。だから好きなだけここにいろ。今日だけじゃなくていつでもここに来ていい。だけど、俺がいないときはすぐに屋敷の中に戻るんだぞ。それが約束だ」


「ありがとう。ライキがいないときはすぐに戻るわ」


―――ライキの言ってることがよく分からないけど、とりあえずここにいていいみたい。


ユリアは暫くの間、ライキと一緒に花に水を上げたり、草を抜いたりして楽しく過ごした。


そして日が暮れかけた頃『もうすぐ夜が来る。すぐに屋敷に入れ』と真剣な顔で言われ、笑顔で別れを告げて部屋に戻った。