「待ち望んだぞ・・・」


そう囁きながら毛布越しに頬に触れる。

優しい掌と指先が毛布の上を滑る感覚。

視界が遮られてる分触感が際立つのか、意に反して敏感に反応してしまう。


唇、胸、腰、脚・・・ゆっくり這いまわるそれは、直に触れられていないのに熱が伝わってきて、徐々に体の奥を痺れさせていく。


これは一体何・・・?

自分の意思で動かすことも出来ない体は自由自在に転がされ、思うままに熱が伝えられる。

次第に抵抗する気力を奪われ声も出せず、甘く熱い息だけが毛布の中に渦巻いた。



「意地を張るな。身を任せ、我がモノとなれ」



重低音で囁かれて体中に震えが走る。



―――何でこんなところにいるの・・・この方は誰なの・・・―――



とろんと蕩けていく意識の中、懸命に記憶を掘り起こす。

やっぱりあれは夢ではなくて、本当にあったこと。

私は、昨日、ケルヴェスに・・・。


となればこの方は、謀反を企む例の王子様!?

するとこれは、贄にする儀式か何かで―――?


容赦なく与えられる甘く優しい刺激。

恍惚の海に落ちておぼれそうになるのを、昨日のことを思い出してなんとか引張り上げる。


だめ・・・思い通りになっては、ダメ。



「我が妃よ。セラヴィと呼ぶを許す」



―――妃?・・・勝手にそんなこと決めないで・・・私は―――



体中に触れる感触が消え、顔の上の毛布がゆっくりと取り除かれていく。

徐々に広がる視界に、あの日瑠璃の森で見た青年の顔が映った。

力強い光を放つ漆黒の瞳は予想とは違って優しく感じる。

あの時の印象と同じ。

やっぱり悪いお方には見えない。

けれど、この方はあのケルヴェスの主―――



「その薔薇色の頬、潤んだ瞳。この香り・・・非常に魅惑的だ・・・縛りを解く。さぁ、その愛らしい唇で我が名を呼ぶがいい」



唇のあたりが解れた感覚がするけれど、体はまだ固く縛られたまま。

セラヴィの瞳は顎のあたりに固定されてて、動くのを待ってるよう。

だけど、名を呼んではいけない気がする。

何となく、何かが終わって始まるような、そんな嫌な予感がする。

儀式が完成するような。

取り返しのつかないことが起こりそうな。


狼の国を、皆を守ると決めたのだもの。

贄になる可能性を少しでも低くして、この方の野望を打ち砕かないと―――――――



「貴方のことを何も知らないのです。名前は、まだ呼べません」



そう言えば、目の前の瞳が哀しみを含んだように見えた。