あの生命力、流石は歴代最強と言うべきか。

或いは国作りの力を調整しているのか。

いずれにしても、王は変わらずに美丈夫だと聞く。


あの男、言う通りに投薬してるのか?

一度、確かめねばならんな・・・。



・・・カタ・・コツン・・・



窓の向こう、耳が微かな物音を拾う。

今の時間、使用人は皆部屋にいる筈。



「誰だ!?」



勢いよく窓を開け放ち身構えつつ誰何すれば、足元に男が踞っていた。

囁くような小さな声が出される。


「・・私です」

「・・・っ、貴様は賊長じゃないか!・・ここに来るなと言ってある筈・・・っ、その怪我はどうしたんだ。何があった」

「失礼致します・・お静かに願います。追われていますので・・・中に」



肩の辺りを押さえつつ賊長は部屋に入り込んで深い息を吐いた。

一応木々の向こうの気配を探るが、誰もいる様子はない。

窓を閉め、カーテンをピッチリと閉じる。

賊長を改めてじっくり見れば、傷はかなりの深手とみえる。

傷の補修は苦手だがしないよりはマシだろう。


「傷を見せろ」


肩に手をかざしながら問う。


「追われてる、だと?説明しろ」

「申し訳ありません。貴方様の留守中急展開が起こり、それに対応した結果がこの様です」

「勝手に動いたというのか!」


声を潜めながらも荒げると、族長は「浅はかにも」と深深と頭を垂れた。

ぎりっと歯を噛む。



何てことだ。

ほんのわずか自国に帰っていた隙に。



「この様子を見れば問わずとも分かるが一応聞こう。どうなった」

「思慮が足りず失敗しました。かなりの仲間が掴まり・・・情報によれば、例の娘はケルヴェスの手に落ちたようです」

「何!?それは本当か!?」



倒れ込むようにソファに身を沈めて額に手を当てる。

あまりの急展開に思考が追い付かない。

何ということだ。

恐れていた最悪の事態がすでに起きていたとは・・・。

落ち着け、落ち着いて考えるんだ。

手に落ちたとはいえ、すぐには魔王のものにはなりえないはずだ・・・。


なんとか。

まだ、機会はある筈。

考えろ――――








繁華街の音も届かぬ静かな夜。

バルリーク王子の妃候補、黒髪の娘ユリアが消えたラッツィオの国。


失意の底に沈むリリィの傍に付きっきりのザキ。

白い腕の中で次第に殺気を放ち始める白フクロウ。

難しい議論に発展していく円卓の会議。

町はずれの小さな屋敷で頭を抱える男二人。

愛と焦燥が渦巻く夜は、各々を眠らせることなく刻々と更けていった。