―――・・・ぁ・・・もしかして、ここはナーダのお部屋?

ユリアが慌ててドアを閉めようとすると、いつの間にかナーダが横に立っていた。

驚いて、ビクッと体が震えてしまう。


「あ・・・ごめんなさい。鍵がかかってなかったものだから―――ここはナーダのお部屋ですか?」


自分よりも背の高いナーダにじろっと睨まれて見下ろされると、とても怖い。

もしかして、勝手に開けたから怒ってるのかしら。



「鍵が・・・?違います。ここは別のメイドの部屋です。私の部屋はこの隣ですから」


そう言いながら部屋の中を覗いて、中を調べるようにキョロキョロと瞳を動かした。

その様子がいつもの冷静なナーダと違って、何か慌てているように見えるのは気のせいかしら。



「ユリア様、何かご覧になりましたか?」

「いいえ・・・何も。ペットの白い鳥を見ただけで・・・。あの、ナーダ。ここには今誰もいないんですか?ずっと歩いて来たけど、誰にも会わなかったわ」


「・・・そんなことは御座いません。今の時間は―――皆それぞれの仕事をしていますので、屋敷内にいないのはそのせいでしょう。ユリア様、出来れば、勝手に部屋の中を見ることはお辞めください。何が見えるとも分かりませんので―――」


「えぇ、そうよね。勝手に開けて中を見て、このお部屋の方に失礼なことをしてしまったわ。ごめんなさい」


「いえ、そういうことではなくてですね・・・あの―――」


「え・・・?」



ナーダは困ったように瞳を伏せ、何か言い淀んでいる。

そして何かを小声で呟いた後、ユリアを真っ直ぐに見つめた。



「いえ、なんでも御座いません―――ユリア様、綺麗な花はお好きですか。今の時間は庭に出られると、庭師が居ります。あの者は、庭を褒めると大変喜びます。あちらに玄関が御座いますので、外に行かれてみてはどうですか」


「えぇ、分かったわ。実はテラスから見えた庭がとっても気になっていたの。行ってくるわ」


ユリアは、曖昧に口を歪めているナーダにニッコリと微笑み、教えて貰った玄関へと急いだ。



背後では、ナーダがホッとため息をついて、まだ開かれたままだった部屋のドアを、静かにそっと閉めていた。