その忙しげに右往左往する職員の様子を上階の窓から見下ろして、ザキはぼそっと呟いた。


「まったく・・・とんでもねぇことになったな・・・」


ぴっちりとカーテンを閉め、部屋の中へと目を戻せばようやく落ち着いた様子のリリィがいる。

ついさっきまで「ユリアさんのことに行く!行かせて!」「地元だもん!知らせたいヒトもいるもん。行かなくちゃ!」などと泣き叫んでいて、止めるやら宥めるやらで大変だったのだ。

泣き腫らした目でただ一点を見つめる様子は、まだ無茶なことを考えていそうで、兎に角心配でならない。



―――取りあえず見張っとかねぇとな・・・アイツも含めて。

こりゃ今夜は眠れそうにねぇな―――


徹夜だ。

そう腹を決め、傍に寄って小さな肩にそっと手を乗せると、僅かにびくんと震えた。

虚ろに座る腕の中に白フクロウを入れ、小さな手は宥めるように白い羽を撫で続けていた。

真っ白な綿毛から覗くガラス玉の瞳は、三角につり上がりギラギラと光を放ちながら出入り口一点を見つめている。

そこさえ開けば、リリィの手を振り払ってすぐにでも飛び出して行きかねない状態だ。



“いいか。見張ってろ”


バルに頼まれ、リリィのおまけだからと承ったのはいいが、どう扱ったらいいものか考えあぐねていた。



―――どう考えても、俺じゃ止めれねぇ気がするぜ。

隼のブラッドさんなら出来るかもしれねぇけど。

まったく、厄介だぜ。

頼むから誰もドアを開けねぇでくれよ―――


そう念じながらドアを睨みつけてると、再び震えだした肩から小さな声が伝わってきた。



「ね、ザキ?・・私・・どうしよ・・・ね、どしたらいい?・・・ユリアさん・・・二度と会えないの?・・・ね、ザキ・・教えて」

「今、あっちでバル様達がどうすっか話し合ってっから。待ってろ・・・な?今、俺達には待つことしかできねぇよ」



幾度となく言った言葉。

ザキの意識は一つ部屋を隔てた広間に向けられた。


そこには眉間に皺を寄せた男たちが集っている。

王と大臣六名各騎士団長、それに王子バルリーク。

丸いテーブルは国を揺るがす重要な事項を議論する際に用いられるもの。

皆の表情が均等に見られ、必要以上に声も張らなくてすむためだ。

議題はもちろん妃候補ユリアの件。

連れ去った相手はケルヴェス。

誰もが知るセラヴィ王の側近だ。

この先の対応をどうするべきか。



「ジークの報告を漏らさず読み取り、古の慣習に倣えばセラヴィ王の元にいくのが一番だと考えられる」


一人の大臣が重々しくそう言えば、別の大臣が反論する。


「古の約束事などもう無効だろう。今はこの国にとって大事なお方なのだから。是が非でも取り戻しに行くべきだ」


賛同の声もあがれば否定の声も上がる。

相手が相手だけに結論を出すのは慎重にならざるを得ない。



バルとしても重々に分かってることだ。

眉間にしわを寄せ黙り込む。

国として、どうすべきなのか。

一人の男として、どうしたいのか―――



意見は二つに分かれ、結論を出せないままに熱い議論はいつまでも続いた。