振り返り腕を強く掴まれ、ずいっと近付く怒りに満ちた瞳が私を見つめる。
ありがとう、そんな貴方たちだから、私は身を投げだせるの。
「分かってジーク。貴方に怪我をさせるわけにはいかないの。アリを救えるのは貴方だけ。私は、自分のすべきことをするわ」
「すべきこと?それは―――・・まさか、お前―――・・駄目だ。俺は認めんぞ。バル様も、アリ殿もだ。何のために身を投げ出したと思ってるんだ!」
でも、もう決めたの。
お願い。
決心を揺るがさないで。
「・・・ジークを止めて、ケルヴェス。貴方なら出来るのでしょう」
「はい、承知しました。ですが、なにぶん苦手な技ですので。すぐに此方に来るよう願います」
「分かったわ・・・」
「な、・・・やめろ。行くな!」
ジークの体が動かなくなった。
固まったみたい。
毎日私を診察してくれた優しい手をそっと撫でる。
少し毛深い手の甲。
狼に変身する話になった時に、貴方は隠したっけ。
この手に沢山助けられた。
私の大好きな手。
この腕も・・・。
血管の浮き出た医者らしくない、逞しくて男らしい腕。
いつもあったかくて面白くて・・・。
親身になって私のお話を聞いてくれた。
この世界の私のお父さん。
沢山の優しさをありがとう。
貴方のこと、絶対に忘れないわ。
フレアさんと幸せに―――
「―――ありがとう、ジーク」
大きな手からそっと腕を外して、ケルヴェスのところへ向かう。
呼び声が聞こえる。
けど、振り向けない。
振り向いたら、もう一度駆け寄ってしまいそうになる。
優しい世界に戻りたくなる。
でも、今は。
私がそのあたたかい国を守らなくてはならない。
この世界の平和も。
そうすることが、私に出来る皆への最大限の恩返しだもの。
きっと、守ってみせるわ。
ジークの体を睨みつけ、最大限に集中してる様子のケルヴェス。
言う通りに苦手な分野のよう。
「アリは何処にいるの。彼に教えて」
「・・・畑の直中にいた。道の向こうに『まーぶる』という店があった。それで分かるでしょう。急いだ方がいいですよ」
ケルヴェスの腕に抱えられ青い瞳を見るよう誘導されれば、くらりと視界が揺らいだ。
「待て!いいか、絶対に伝えんからな!必ず自分で言わせる。それから礼は言わんぞ。今度会った時だ。必ずだ!いいな!待ってろ!!」
叫ぶジークの声をおぼろげに聞きながら、ゆっくり意識を手放した。