ふと、ある結論に至って肩の力が落ちる。


―――そう、よね。

これ以上、狼族の方に迷惑はかけられない。

あのとき、皆を守るために今度こそ前に出るって決めたじゃない。


今、出なくてどうするの。


その先のことを考えて怖気づいて泣きたくなる心を懸命に叱咤する。



それしかないもの。


もう、覚悟を決めなければ―――






建物の方を見れば、バルの顔が思い浮かぶ。


今、貴方は賊と闘ってるのよね。


お別れの言葉も、お礼も言わずにごめんなさい。

お店の中にいる時は、こんなことになるなんて、思ってもいなかった。




瑠璃の森で貴方が看病してくれたことを思い出すわ。

とても心配性な貴方は、しょっちゅう「大丈夫か?」って気遣ってくれたっけ。


カフカから宝物を持ち帰ってくれたこと嬉しかった。

部屋に置いたままになってしまうけれど、お父様のお姿は私の心には深く刻み込まれてるわ。


バルのしてくれた、いろいろなことが走馬灯のように頭の中を過っていく。


部屋の中で過ごしたこと。

いつも警戒しててごめんなさい。


沢山のありがとうを伝えたかった。


最後に、貴方と話をしたかった。





前にある広い背中に額をつける。

逞しい背中。

何度ジークに助けられたかしら。


涙が出そうになるけれど、必死でこらえる。





「ジーク、今まで本当にありがとう。リリィに、黙って行ってごめんなさいって伝えて。それから、私のこと好きになってくれてありがとう、名前を教えられなくてごめんなさいって、バルに」



「待て!お前は何を言ってるんだ!俺は伝えんぞ」