――逃げなくちゃ。でも。一体どうすれば・・・。
こうしている間にもケルヴェスの足音は近付き、足元近くの地面に例の閃光がぶつけられる。
考える間を与えないよう。
逃げる隙も与えないよう。
「おっと、邪魔なこれを退けなければいけませんね」
声とともに空を走る閃光が目に入ったかと思えば、派手な音を立てて馬車が横倒しになった。
驚いた馬がいななきながら大きく体を跳ね上げる。
そのまま狂ったように走りだしずりずりと馬車を引きずって行くので、アリはジークに支えられよろめきながらもその場から離れた。
「ぃつっ――・・何て様でしょう・・・すみません・・失敗しました・・ジーク殿・・あとを、頼みます・・・バル様に」
絞り出すような声。
―――後を頼むって・・・そんな・・・。
こんな状況。やっぱり嫌な考えしか浮かばない。
汗を光らせ薄く微笑む顔をじっと見つめる。
「待って、一緒に逃げるのよ」
体がアリから離されていくのを感じる。
「駄目!アリ、お願いやめて!そんなこと許さないわ」
「さぁ早く王子様の元に!」
「アリ!!嫌っ――ジーク、待って!嫌よ!!」
ジークの腕の中に転がされるように渡された私の体はがっちりと抱えられ「口を閉じろ!」の声を最後に、耳は風を切る音に支配された。
アリに向かって伸ばした腕が虚しく空を切る。
駄目だって言ってるのに。
瞬く間に流れていく周りの景色がぼやける。
―――アリと過ごした日々。
初めて会った時のこと。
講師をする姿。
冷たい顔。
いろんな場面が現れては消える。
アリ・・アリ、お願い・・・無事でいて――――――
どんな速度なのか、風圧で息をするのもままならないほどの全力疾走をし続けるジーク。
やがて高い木の向こうに建物の影が見え始めた時、走る速度が緩まった。
「もう・・少し・・だ・・我慢しろ」
走りに走ったジークの息は荒く乱れてる。
「ジーク、少し休んで。彼は来てないから」
恐る恐る後ろを確認すれば、追ってくる姿は何処にもない。
アリが止めているのだろう。
最後に見たのは、ケルヴェスの前に移動した姿。
唇をぎゅっと引き結んでただ一心に願う。
―――アリ、お願い。
無茶しないで逃げて。
逃げていて―――
息を整えるジークの顔を見上げると、額には汗が光っていた。
「ジーク、アリが怪我をしたのは、私が」
「それ以上言うな。潜り込むお前を止めなかった俺も同罪だ」
ギリリと歯噛みする音が聞こえる。
ジークはお医者様。
怪我人を置いて行くなんて行為、私以上に辛いに違いない。
私をバルに引き渡したら、すぐに引き返すつもりだわ。
「行くぞ、口を閉じろ」
再び走りだすジーク。
その脚が次第に緩まりピタと止まった。
「もう少しなのに・・・何故、だ」
愕然とした様子で呟くジーク。
視線の先を見れば、道の真ん中にもやもやとした影があった。
―――あれは、まさか―――
こうしている間にもケルヴェスの足音は近付き、足元近くの地面に例の閃光がぶつけられる。
考える間を与えないよう。
逃げる隙も与えないよう。
「おっと、邪魔なこれを退けなければいけませんね」
声とともに空を走る閃光が目に入ったかと思えば、派手な音を立てて馬車が横倒しになった。
驚いた馬がいななきながら大きく体を跳ね上げる。
そのまま狂ったように走りだしずりずりと馬車を引きずって行くので、アリはジークに支えられよろめきながらもその場から離れた。
「ぃつっ――・・何て様でしょう・・・すみません・・失敗しました・・ジーク殿・・あとを、頼みます・・・バル様に」
絞り出すような声。
―――後を頼むって・・・そんな・・・。
こんな状況。やっぱり嫌な考えしか浮かばない。
汗を光らせ薄く微笑む顔をじっと見つめる。
「待って、一緒に逃げるのよ」
体がアリから離されていくのを感じる。
「駄目!アリ、お願いやめて!そんなこと許さないわ」
「さぁ早く王子様の元に!」
「アリ!!嫌っ――ジーク、待って!嫌よ!!」
ジークの腕の中に転がされるように渡された私の体はがっちりと抱えられ「口を閉じろ!」の声を最後に、耳は風を切る音に支配された。
アリに向かって伸ばした腕が虚しく空を切る。
駄目だって言ってるのに。
瞬く間に流れていく周りの景色がぼやける。
―――アリと過ごした日々。
初めて会った時のこと。
講師をする姿。
冷たい顔。
いろんな場面が現れては消える。
アリ・・アリ、お願い・・・無事でいて――――――
どんな速度なのか、風圧で息をするのもままならないほどの全力疾走をし続けるジーク。
やがて高い木の向こうに建物の影が見え始めた時、走る速度が緩まった。
「もう・・少し・・だ・・我慢しろ」
走りに走ったジークの息は荒く乱れてる。
「ジーク、少し休んで。彼は来てないから」
恐る恐る後ろを確認すれば、追ってくる姿は何処にもない。
アリが止めているのだろう。
最後に見たのは、ケルヴェスの前に移動した姿。
唇をぎゅっと引き結んでただ一心に願う。
―――アリ、お願い。
無茶しないで逃げて。
逃げていて―――
息を整えるジークの顔を見上げると、額には汗が光っていた。
「ジーク、アリが怪我をしたのは、私が」
「それ以上言うな。潜り込むお前を止めなかった俺も同罪だ」
ギリリと歯噛みする音が聞こえる。
ジークはお医者様。
怪我人を置いて行くなんて行為、私以上に辛いに違いない。
私をバルに引き渡したら、すぐに引き返すつもりだわ。
「行くぞ、口を閉じろ」
再び走りだすジーク。
その脚が次第に緩まりピタと止まった。
「もう少しなのに・・・何故、だ」
愕然とした様子で呟くジーク。
視線の先を見れば、道の真ん中にもやもやとした影があった。
―――あれは、まさか―――