「勿論、と言いたいところですが。今のところは“そうだろう”と認識してる程度です。ですが、少し調べれば分かること。奴の目論見は大きく外れ、私にとって却って好都合に動いた。有難いことです。ことが済んだ暁には主に報告し、礼をしようと考えてます。喜んで賛同して下さることでしょう」


ケルヴェスの言う“礼”って、きっと別の意味合いのものだ。

穏やかな仮面を取れば、冷酷な顔が見えそう。



「さて、お二人には見物していて貰いましょうか。私の力は到底主には敵いませんが、貴殿方を止めるのには十分です」


脅しの気を込めたケルヴェスの声を聞くのと同時に、指先が待ち望んでいたものに漸く触れた。

これで、上手くやれれば――――


先のことを考える余裕なんてない。

ケルヴェスをこの場から遠ざけられればそれでいいもの。



下に潜り込むべく体を屈める。

初めて覗き見るけれど、馬車の下は案外に狭い。

上手くいくことを願いながら入り込んだ。


ずりずりと進めば、外では一段と高くなったケルヴェスの声が響いた。

急がなきゃ。



「怪我をしたくなければ退くことを薦めます!」


「チッ――――貴女様は何処にっ。ジーク殿、バル様に連絡を!」



盛大な舌打ちとともにアリの腕が目の前に現れて、ぐいっと引きずり出されて声を出す間もなく抱き上げられた。



頼みます!と叫んでアリが体勢を整えたその刹那。


その背後で一筋の閃光が音もなく空を切って進みくるのが視界に映った。



「・・・・っ!!」


声にならない息が漏れるのと同時に、びくんと背を反らせたアリの顔が苦痛に歪む。


「う・・ぐっ・・ぅ」


呻き声をあげてよろめき前のめりになるものの、私を落とすまいとぐっと踏みとどまる。

荒い息を吐きながら何とか堪えて体勢を立て直したけれど、小刻みな震えが体に伝わってくる。



アリ・・・?



辺りに漂う焦げた臭い。


背中がざわつき体中の血が一気に下がる。


まさか・・・まさか――――




アリの体の向こうで、掌を前方に向けて不敵な笑みを浮かべるケルヴェスがいる。



今、一体何をしたの・・・?


あの光りは、何?




「・・・アリ?・・大丈夫なの?」