ユリアは思わず目を瞬いた。

窓の向こうには予想に反し、普通に地面があって、大きな木が何本も生えていた。

そしてそれが見渡す限り奥の方までずっと続いている。

木の根元には小さな白い花弁を咲かせる草がたくさん生えていて、白い毛並みの可愛い小動物が一匹、その草を美味しそうに食んでいた。


――昨日見たあの景色は何だったのかしら。

やっぱり幻?

そうよね・・・だって、今見てるこの景色の方が多分常識にあってるもの。


昨日は地の底が見えないほどに、闇がどこまでも広がっていた。

まるで地獄の底まで続いているような、そんな深い深い闇だった。

きっと、ラヴルの妖艶な雰囲気にのまれて、夢を見ていたんだわ。


ユリアは、ちっとも納得できないが、そう思うことにした。

分からないことを、ずっと考えていてもしょうがない。



「あの動物、とても可愛いわ」


草を口いっぱいに頬張って、もぐもぐする姿がとても微笑ましくて、とても可愛い。

ユリアが飽きることなく見ていると、草を食んでいた小動物は満足したのか、頭をぴくんと上げて体を反転させ、木立の奥に消えていった。



ユリアはカーテンを締め、今度は屋敷の中を探索することにした。

部屋を一歩出ると、長~い廊下がずっと真っ直ぐに伸びている。

しんと静まり返っていて、誰もいる気配がない。

普通、このくらい大きな屋敷であれば、もっと沢山の使用人やメイドが居て、忙しげに働いててもいいはずなのに。

こうして歩いていても、響いているのは自分の足音だけ。

他には何の物音もしない。



―――皆どこかに出かけているのかしら。

まさか、ナーダ一人で、この広大な屋敷の手入れをしてるわけじゃないわよね?

誰もいないなんておかしいわ。


ユリアは試しに手近なドアをノックしてみた。


コンコン―――


「どなたかいらっしゃいますか?」


ドアに耳を近付けてみても、中は静まり返っていて人のいる気配は微塵もない。

ドアのノブに手をかけると、カチャッと音を立ててすぅっと開いた。



「・・・鍵はかかってないのね。と言うことはこの部屋は使われてないのかしら?」


中は普通サイズのベッドに、鏡台にクローゼット。

窓には薄いピンクのカーテンがかかっていて、一見して女の人の部屋のよう。

真ん中では大きな白い鳥が、止まり木の上ですやすやと眠っている。



「きれいな鳥だわ・・・この部屋の方のペットかしら」