布を握り締めているナーダの手を握り、もう一度にっこりと微笑んだ。

濡れた布を持っているせいか、ナーダの手は結構冷たい。


「・・・・この街は『ルミナ』という名前です。この屋敷は、ラヴル様が最近購入されました。私はラヴル様に仕えて3年になります。年齢は分かりません。以上です・・・もう宜しいですか」


呟くように話すと、ナーダはユリアの視線を避けるように、ぷいっと横を向いてしまった。

この隙に、ナーダの手から濡れた布を奪い、さっと後退りをした。

ナーダが慌てて手を伸ばしてくるのを、手で制して笑いかけた。


「これくらい、私にもさせて。ラヴルには内緒にしておけばいいわ。ね?」

「分かりました。自由にしてください。貴女は変わってますね」


ナーダは奪い返そうと伸ばした手を引っ込め、大きなため息を吐いた。





「ユリア様には、この屋敷内であれば自由に過ごして頂くようにと、ラヴル様より申しつけられております。ですから、どうぞご自由に屋敷内を散策するなり、庭に出るなりなさって下さい。私は自分の用事を済ませて参りますので。では、失礼致します」



一通りの掃除が終わると、ナーダはそう言い残して部屋を出ていった。



この屋敷に来て2日目。

目覚めたらいつもベッドの上で。

出歩くときはラヴルに抱きかかえられて。


この屋敷で知ってるのは、今いる部屋と階段を登った場所にある、あの狭くて怖いヴィーラ乗り場だけ。


そういえば、こっちのテラス側の景色は綺麗だけど、ヴィーラ乗り場から見た景色は、星空が何処までも続いていたわ。

ということは・・・この反対側の窓の外は、断崖絶壁なわけで・・・。



ユリアは何となく確かめてみたくなって、反対側の窓に向かった。

テラス側の大きな窓と違い、腰高の小さなそれには、細かい木の葉模様のレースのカーテンがかかっている。



――予想通りなら、このカーテンの向こうは何もなくて、果てしない空が続いているはずだわ。



真っ青な空に、白い雲が浮かんでいる様を想い浮かべながら、ユリアはカーテンをサッと開けた。



「・・・・え?」