馬車のドアを開くと、まるで待ちかまえていたように、すぐさま声がかけられた。


「ようこそいらっしゃいました」


黒い服を着て、仮面をかぶった男が出迎えに来て二人に仮面と口髭を渡した。



「こちらをどうぞ。あぁ、付けてから降りて下さい」


二人が仮面と付け髭を付けて馬車を降りると、黒服の男は歩き出した。


そのあとについて行き、壊れかけた小汚いドアを開けて入ると、そこには、外観とは全く違う世界が広がっていた。




オレンジ色の暗い照明の中、夜の闇にまぎれて集まる身なりの良い紳士や淑女たち。


みんなそれぞれ素性が分からぬように、渡された仮面を付けている。


女性は皆仮面に扇を持って顔を隠し、男性は皆仮面に口髭をつけていて、何処の誰だかまるでわからなかった。



「ご主人様、結構人がいますね」


「そうだな。皆、この目玉商品とやらに惹かれてきたんだろう」



ウェイターから飲み物を貰い、飲んでいると、女性が扇で顔を隠しながら話しかけてきた。



「こんばんわ・・・今日は人が多いですわね・・・その訳をあなた様はご存知ですか?」


「いいえ。貴女はご存知なのですか?」


「えぇ―――そうね・・・・これは、内緒の話なんですが、貴殿方には教えて差し上げますわ。―――――今日の目玉商品、どうやら人間の娘らしいんですの」


極秘の情報なのか、女性は二人に近付いて声をひそめながら言った。

二人が顔を見合わせたあと、驚きの声をあげると、女性は得意そうに笑った。




「レディ、それは本当ですか?」


「えぇ、だからそれを知っている皆さんは、目の色を変えていらっしゃるわ。かく言うこの私も―――今日は負けられませんわ。もちろんお二人にも―――ではお互いの健闘を祈って、ご機嫌よう」



女性は扇で顔を隠しながら、優雅に人並みの中に消えていった。



「ご主人様、これが間違いないなら・・」


「あぁ、そうだな――」



二人は唇を歪めて不敵に笑い、女性が消えた方をずっと見ていた。