――何もしなくていいって、そう言われても・・・。

それに、ただ傍にいるだけでいいって、どういうことなのかしら。


こんな大きなお屋敷とあの小さな島の屋敷。

それに、昨日見たこの街は小さいけれど、とても栄えているようだった。

ラヴルって、この街の領主様なのかしら。


ユリアはナーダをチラッと見やった。

さっきからずっと、箒を持って忙しげに部屋の中を掃除している。



「あの、ナーダ。聞いてもいいですか?」


「何でしょうか」


ナーダは箒を持つ手を止め、ユリアを見た。



「ラヴルって何をされてる方なんですか?私、何も知らなくて・・・」



これから傍にいる方のことくらい、知っておかないと。

何も知らないのでは話も出来ない。



「ラヴル様から何も聞かれてないんですか?」


「えぇ、聞いてないです」



――聞くも何も・・・。

昨日はヴィーラに乗って島に行って、湯に入ったあと部屋に入って。

気が付いたら襲われてて・・・。

そんなわけで話も何もしていない。


ラヴルに聞きたいことは沢山あるのに――



「でしたら、私の口から話すことは出来ません。ラヴル様から直接お聞き下さい」


そう言ってナーダは再び箒を動かし始めた。

ナーダの近くに、水を張ったバケツがあるのが見える。


――箒の後、あれでどこかを拭くのよね?


ユリアはバケツの傍に座りこみ、中に浸してあった布をぎゅっと絞った。



「ラヴルのことが話せないなら、その代わりに、ナーダのことを教えて?それから、この街のことも―――それで、何処を拭けばいいの?」


濡れた布を持ってニッコリと微笑むユリア。

ナーダは暫く目を見開いていたが、ハッと我に帰りユリアの手から布を奪い取った。


「こんなこと、ユリア様がなさることでは御座いません―――街のことはともかく、私のことなど知ってどうするのですか」


「ナーダのこと、知りたいことはたくさんあるわ。年齢とか、いつからここで働いてるのかとか・・・・いろいろ。私、記憶をなくしてて自分のことが何も分からないもの。でも、ナーダは自分のこと話せるでしょ?お願い、教えて」