「あ・・・それはそうですけど・・・私、困ります」

「いいから、食べろ。ユリアが元気でいてくれないと、困る」


そう言ってラヴルは何をするでもなく、食べてるところをずっと見ている。


ただ食べるところを見てて、何が楽しいのかしら。

昼間のラヴルは、夜の雰囲気とはまるで違う。

此方を見つめてくる漆黒の瞳も、あの妖艶さが抜けてて、なんだかとっても優しく見える。

どちらが本当のラヴルなのかしら・・・。



「うむ、いい子だ―――全部食べられたな。顔色も少し良くなった」


ぼんやり考え事をしていると、いつの間にか、ラヴルが隣に立っていた。

長い指先が、頬を優しくスゥっと撫でている。

ゾクッと震えるような、妙な感覚がユリアの体を襲う。

ドキドキしたくないのに勝手に心臓が動いてしまう。


――ナーダとツバキが居るのに・・・二人とも何処にいるのかしら。


部屋の中を見廻すと、ナーダとツバキは入口近くの壁に二人並んで立っていた。

ツバキはにこにこしているし、ナーダは無表情。

二人ともこっちをずっと見ている。



「ラヴル、二人が見ています。手を離して下さい」


「触れてるだけだ。別に構わないだろう?」


クスッと笑うラヴルの声が上から降ってきた。

いつしか指は移動し、長い黒髪を指の間からサラサラと零している。



――何か・・・何か話さないと・・・。



「あの・・・ラヴル、聞きたいことがあるんですけど」


「何だ?何でも言ってみろ」


「私はここで何をすればいいのですか?体力には自信がありませんし、私に何が出来るか分かりませんけど、もう働くことは出来ます。何でも言って下さい」


「なっ―――働くだなんて、何言ってんだ、ユリア」


ツバキの大きな声が部屋の隅から聞こえてきた。

その隣でナーダが瞳を大きく見開いている。

二人ともかなり驚いたようで、ツバキの方は口を開けたままだ。

髪を弄っていたラヴルの指も、ピタリと止まってしまった。



――私、そんなに変なことを言ったかしら?



「勘違いしているようだな・・・ユリアは働かなくていいんだ」


「え・・・?では、私は何をすれば」


「何もしなくていい。私の傍にいればいい。昨夜は疲れただろう・・・。ここはユリアの部屋だ。気にせずにゆっくりしてるといい。また夜に会いに来る―――それまでいい子で―――」



ユリアの頭に唇を乗せて、ラヴルは満足げに微笑み、コツコツと大きな足音を立ててツバキと一緒に出ていった。