「―――いいの?ほんとにいいの?」


何度も何度も聞いてしまう。

持っていたら、また、なくなってしまうんじゃないだろうか。

引き出しの奥に仕舞ってあっても、大事な物は全部消えてしまう。

だから、これもそうなら、貰わない方がいい。

哀しくなるだけだ。



「それは・・・持つっていうか―――何というか―――」



男の子は困ったような顔をして空を見上げた。

そこには妖精がくるくると踊りながら飛んでいる。



「うん・・・それは、妖精の花の種だと言ったな。植えれば、来年綺麗な花が咲くらしい。だから、持って帰ったらすぐ庭に植えろよ」

「・・・おはなのたね、なの?」



―――これが?


もう一度まじまじと見つめる。



・・・どうみても、ぴかぴかひかってる。

わたしのしってるおはなのたねは、こんなんじゃない。

もっとちっちゃくて、くろくて・・・かたい・・・。




「よく分からないけど・・・妖精の種だ。植えて放っておけばいいよ―――ほら、怖がらないで。手を出して」



庭に植えておけば、何処にも消えていかない。

哀しくならない。

咲くたびに妖精のことを、今日のことを思い出せる。

不安が嬉しさに変わって受け取ろうと決めるけれど、ぷかぷか浮いてるそれはとても熱そうに見える。

幼く乏しい経験からも導かれること。

光る物は全部、熱いのだ。



「ん・・・さわっても、あつくない?へいき?」


「大丈夫だから。そのまま動かさないで」



虹色の光を放つそれは、おっかなびっくりに出した手の上にゆっくりと下りてきた。

ころんと落ちて揺れが収まると、徐々に光をなくしていく。

時間が経てば、てのひらの中には白い粒が転がっていた。


これが、お花の種。

妖精のお花。

咲いたらどんなに綺麗だろう。



「ありがとう!すごくうれしい、たいせつにするね!」


―――どこにうえたらいいかな。

ひとに、ふまれないところがいいよね。

うーん・・・えっと―――


あれこれ場所を思い浮かべて頭をひねる。

こんなに楽しいことを考えるのは久しぶりだ。




「失礼致します。お楽しみのところ申し訳御座いません。そろそろお帰りになりませんと」


何処からともなく現れた大人の男の人。

大人の人なのに、とても丁寧な口調で男の子に話しかけてる。

その人を見て、男の子は顔を歪めながら腕を上にあげた。


ぱちんと指を鳴らす音。


「ん・・・もうそんな時刻か。仕方ないな」



可愛い妖精、綺麗なお花、ふわふわ飛ぶ蝶。


みんなどんどん空の向こうに消えていく。



―――もしかして・・・もしかして―――