緑の風が吹く草原。

真ん中に立つのは、黒い服を着た幼い女の子と少し年上の男の子。

ふわふわと浮遊する色とりどりの綺麗なお花と蝶に囲まれ、嬉しそうに笑う女の子の頬には涙の痕がある。


お花と蝶を掻い潜って飛び回るのは、小さなお花の妖精。

ふわふわの羽をぱたぱた動かし、愉しげに笑い声を上げながら踊るように飛びまわってる。

数本のお花は、くるくる回りながら上に下にと多彩に動く。


その中で、手元まで下りてきたお花の茎を、指先でツンツンとつついてみた。

と、どんな仕掛けなのか、ぴくんと一瞬震えたかと思えばひゅーんと勢いよく上に飛んでいった。

呆気にとられて、ぼんやりと行く末を見つめる。

直後、何とも可笑しくなってキャハハと声に出して笑った。

こんな風に笑うのはいつぶりだろう。

楽しくて面白くて、お腹を抱えて笑いながら、何度も繰り返しツンツンして遊んだ。

男の子は傍らで何をするでもなくじっと立って、楽しげに遊ぶ様子を見ている。



「すごいね!どうしてこんなことができるの?」



無邪気にそう問いかけると、男の子はにこっと笑って言う。



「これは、内緒の力なんだ。今まで誰にも見せたことが無い。だから、あなたも決して人に言ってはいけないよ」


「うん!いわない。やくそくする!」



ひとしきり一人で遊んだあと、いっしょにやらない?って声をかけようとしたら、飛び回っていた妖精が男の子に近付いていくのが見えた。

妖精は何かを話しかけているようで、男の子がしきりに頷いている。



・・・あの子、ようせいのことば、わかるんだぁ・・・



「・・・ほら、これ――――キレイだろう?妖精からの贈り物だそうだ」



男の子が近づいてくると、体の周りにあったお花がぱーっと散っていき、何もなくなった目の前の空間に、キラキラしたものが空からゆっくりとおりてきた。

目の高さまでくると、そこでずっと浮遊して留まっている。

不思議に思いながらも光り輝くそれをよく見ると、小指の爪くらいの大きさに思えた。




―――おばばさまからもらった、とうめいな石。

きんじょのおばさんにあずけたら、そのままなくなっちゃった、あのきれいな石。

あれよりも、ずっと、ずぅっときれい―――



「・・・これ、ほんとにもらってもいいの?」



目が離せなくてじっと見つめたまま出す声は少し震えている。

おばば様が家からいなくなってから、部屋にある物がどんどん消えていった。

壁に掛けてあった絵も、綺麗な花模様の食器も、服も。

どれもいつの間にかなくなってた。

今お部屋の中には、テーブルと椅子とベッドくらいしかない。

だから、こんな小さな物でも“持ち物が増える”なんて初めてのことで―――