「目覚められたのでしたら、早く起きて、お食事をお召し上がりください。私の仕事が進みません」


不機嫌そうに言いながら、ナーダはすっぽりと覆われている布団を剥がそうと、端っこをぎゅっと掴んだ。

その手を懸命に制し、ユリアは慌てて叫んだ。


「あぁ、ごめんなさい―――待って!起きます。起きますから・・・あ・・・ナーダ、あの、とりあえず、服をください・・・」



ユリアの頬は薔薇色に染まり、困ったように慌てふためいている。

その表情を見たナーダの瞳が、一瞬ふわっと緩んだ。

無言でクローゼットに向かい、着替えのドレスを手に戻って、布団からにゅっと出ている白い手に渡した。



「お早くお願い致します」



そう言うと、そのまま振り返り、テーブルの上に朝食を並べ始めた。

ユリアはこっそりとぐるぐるに巻かれたシーツを剥がした。

一緒に巻かれていた花弁がヒラヒラと舞い落ちている。

手にした服を見て、少しの間躊躇した。

あの島にあった物と同様に豪華なドレスで、とても自分には合わない。

ナーダをチラッと見ると、忙しそうに食事の準備をしている。


――仕方ないわね・・・今だけコレを着て、あとで変えればいいわ。



「ナーダ、ありがとうございます」


テーブルにつくと、相変わらず大きな皿に、血の滴るような分厚いお肉がドンっと乗っている。

ユリアは困ったように首を横に振ってナーダを見上げた。

朝からこんなに食べられる気がしない。



「そんな顔をしても駄目です。このナーダ、ラヴル様より、ユリア様にはしっかりと食事をして頂くよう仰せつかっております。今日も“全部”食べていただきます」


ナーダはお茶の入ったポットを持って、見張る様に横に立っている。



「でも、ナーダ。朝からこんなに沢山食べたら、私お昼ご飯はとても食べられないわ」



ユリアは分厚い肉にナイフを差し入れながら、遠慮がちに言ってみた。

分厚いお肉は、その見た目とは違い、とても柔らかくてナイフがするっと入っていく。

一体何のお肉なのか、口に入れると何とも柔らかくてジューシーで、蕩けるように美味しい。



「ユリア様、今はもうすでに11時をまわったところで御座います。なので、この食事はお昼と兼用。だから“全部”食べて下さいと申し上げてるんです。人間は本来三食食べるそうではありませんか。それなのに、ユリア様は二食ですよ?たった二食!!ぜーんぶ食べて頂かないと困ります。良いですね?」