「しまった。少し、無理をさせたか・・・?まだ加減がわからんな。これは―――カルティスに叱られてしまうな・・・」


ラヴルの脳裏に、眼鏡をぎらっと光らせて、自分を叱るカルティスの姿が思い浮かぶ。

ラヴルは少し考え込んだ後、服を着こみ、眠るユリアの体を丁寧にシーツで包んだ。



「ユリア、少しの間我慢しろ」


包み込むように抱きかかえ、廊下をスタスタと歩いていく。

すると、後ろから焦ったカルティスの声が聞こえてきた。


「ラヴル様、もうお帰りですか?」


「あぁ、屋敷に戻る」


「ですが、つい今しがた、コトを済まされたばかりで御座いましょう・・・それでは、ユリア様のお体が持ちません」


カルティスがラヴルの体の前に回り込み、手を広げて立ちはだかった。

眼鏡がぎらっと光っている。



「せめてもう少し休ませてからにした方が宜しいです。ユリア様はか弱きお方で御座います」


「大丈夫だ、この通り、ユリアは眠っている。私がしっかり支えていくから、疲れないだろう」


「ですが・・・」


カルティスはユリアの顔色をチラッと見やった。

さっきのコトのおかげで頬は薔薇色に染まっているが、全体的に疲れの色が見てとれる。

こんな短時間でヴィーラで往復するなど、人間のユリアにはキツイに違いない。



「カルティス、此処よりルミナの屋敷の方が、今のユリアにも、この私にも都合がいいんだ。いいから、そこをどけ」


最後にはラヴルの威厳ある瞳がカルティスを睨み、広げられていた腕を下ろさせた。



「―――来い、ヴィーラ」



空に向かって放たれた静かな呼び声で、ヴィーラが何処からともなく現れ、ワッサワッサと翼を動かし、目の前の広場に着地した。

ラヴルはヴィーラの背中にひらりと乗ると、自分の上着を脱いでユリアの体にすっぽりと被せた。


体が冷えないよう、膝の上にしっかりと抱え込んで支えた。



「カルティス、そう案ずるな。リリィに“ユリアが綺麗だと言って喜んでいた”と、そう伝えろ」


心配げなカルティスに笑顔を残し、ラヴルは屋敷へと飛び立った。