「そうか?―――ユリア、こっちを向け」


自分をからかうような瞳。それから逃れるように俯いていたら、長い指が顎に当てられ、くいっと上を向かせられた。

目の前の漆黒の瞳に、戸惑い怯える自分の顔が映っている・・・。

抑えようと思って頑張っても、どうにも震えてしまう唇。

この瞳は、小さな心の中なんて、すべて見透かしてしまいそう・・・。

息も掛かりそうに近くて。顔をそむけたくても、長い指が軽く添えられてるだけなのに、全く動かすことが出来ない。


「ユリア、そう怯えるな―――」


そう呟くと顎から長い指を離し、ラヴルはテーブルに置いていたワインをくいっと飲みほした。

漆黒の瞳から解放され、ホッと一息ついて俯いていると、満足げに呟くラヴルの声が聞こえてきた。



「やはり、ユリアは可愛いな」


目の前でラヴルの髪がサラッと揺れたと思ったら、脚に腕が差し込まれ再び浮遊感に襲われた。

驚いてラヴルを見上げると、妖艶な微笑みがこちらを見下ろしている。



「ユリアは私のモノだ。この美しい肌も、その汚れない心も何もかも、すべて私だけのモノだ。他の誰のモノでもない。したがって、ユリアは私を拒むことは許されない。分かるだろう?」


「え・・・?何を言ってるんですか?・・・あの、下ろして下さい」


「駄目だ」



そう言うと、何処に連れていくのか部屋の中をスタスタと歩いていく。

その向かう方向にある物を見て、ユリアの黒い瞳が戸惑いの色を浮かべ、ラヴルを見上げた。

もともとドキドキしていたのに、更に、壊れるほどに心臓が脈打ち始めている。



―――もしかして・・・このまま行くと、あれは―――



ラヴルが一歩進むたびに、それはどんどん近付いてくる。

本能が身の危険を警告している。

焦るユリア。



「ぁ・・・っ・・あの、ラヴル・・・。今から何をするのですか―――?」


「分からないのか?・・・決まってるだろう。今からユリアを頂く」


「頂くって・・・どう――――あの、やめた方がいいです。私、この通り細いですし、ちっとも美味しくありませんから」