ふんと鼻を鳴らしてやり過ごす。

バルリークも食えない男を傍に置いてるものだ。




―――ふむ。ここが、ユリアの部屋か・・・。

随分豪華な調度品だな。

奴もかなりな本気とみえる―――


ユリアの体をベッドに沈み込ませ、毛布をそっと被せた。

また暫くの間別れることになるな・・・。



「―――なるべく早く迎えに来る。それまで待ってろ」



額と頬に口づけをし、そっと髪を撫でた。

他の男の傍にいるなど、昔の私ならば我慢できなかったが・・・。

貴女だけは―――

寝顔を瞳に焼き付けながら、バルリークの手に落ちないことを祈る。



「その方は、王子様のお妃候補であらせられます。いくら貴方様と言えど、手出しをしないで頂きたい」

「そう言うが――――さんざん、この体に触れたのは誰だ?抱き締めようとしたのは誰だ?今宵はヘカテの夜だ、貴様も、多聞に漏れず彼女の魅力に負けたのだろう」


極限の状態で耐えていたそうだが、その意志の強さだけは褒めるに値する。

もし、手を出していたならば、バルリークの側近と言えど容赦をしないところだ。


温度のない瞳を向けると、僅かに瞳が揺れた。

この男でも動揺するのか。



「っ―――それは、申し訳なく思っております。ですが、王子様には頭を垂れますが・・・貴方様には全く関係のないことで御座います。これ以上は何も仰らないで頂きたい」

「関係なくはない。それはバルリークも承知のことだ――――――また、来る・・・・彼は見張りだ。傍に置いていく。決して追い出すな」


バサバサと羽ばたいて腕にとまった白フクロウを、視線で示す。


「そのお方ですか・・・。彼女は大変可愛いと思っておいでです。正体を知ったらさぞ驚くことでしょう。ばれぬことをお祈りいたします。それに、折角のお考えですが、私は、貴方様の臣下では御座いません。その命はきく必要がないと存じます」



今のこの私にも怯まないこの態度。

手を出さないことを知ってるのだろう。

冷静な仮面をかぶるこの男の、焦る顔を見てみたいものだ。

それは、今ではない。

いつか、必ず―――



「彼は、私の臣下でもあるが、現在は、ユリアに仕えている。彼女の許可なくしてはいくら貴様と言えど、勝手に出来んはずだ」

「結構です。そういうことに致しましょう―――見張りがいれば、此方としても便が宜しいと考えます」

「・・・次回は、正式に訪れると、バルリークにそう伝えておけ。・・・頼んだぞ」


前半の言葉はアリに、最後の言葉は白フクロウに向け、ひらりとヴィーラに乗り込んだ。





降るような星空の中をルミナまで一人で飛ぶ。

妙に肌寒く感じる。

今の今まで抱えていたから余計に。

掌をぐっと握り締める。


次回こそは必ず、ともに―――