だが、余裕を与えてくる貴女には、興味がない―――


「―――いいのか?ダフネにばれても、私は知らんぞ」

「―――っ、こんなときに彼のことを仰るなんて・・・。ラヴル様、随分変わられましたのね」


色の冷めた瞳が睨みあげ、ツンとしてソファから下りる。

ぶつぶつ文句を言いながらもユリアの体を丁寧に拭いて、新しいドレスを身に着けさせた。


ユリアは気付かずに規則正しい寝息を立てたままだ。

余裕をなくし気遣うことも出来ず、随分乱暴に抱いてしまった。

さぞかし疲れたことだろう・・・恐らく目覚めるのは朝だ。



「これで宜しいでしょう?願わくば、二度とこんな役はご免ですわ」

「そう言うな。これでも感謝してる」



ツンと横を向いた顎に手を掛けて上を向かせる。

と、パシンと手を振り払われた。

全く、気の強いレディだ。ダフネに同情する。



「その気もないくせに、酷いお方―――さぁ、その愛しい大事なお方をさっさと連れて行ってくださいませ」


目ざわりだとばかりに鼻を鳴らす。

ユリアの体を揺らさぬようにそっと抱き上げてヴィーラを呼ぶ。

乗り込み振り返ると、シレーヌはめんどくさげに手を振っていた。



「シレーヌ、また頼む。・・・行け、ヴィーラ」


つんと横を向いた態度に苦笑しつつも、寒くないようユリアの体の周りに小さな結界を張った。

本来ならばこのままルミナに連れ帰るところだが、そうもいかない。

ユリアはバルリークの妃候補になっている。

手順を踏んで取り戻さねば、国同士の争いになりかねん。

それに、悔しいが、奴の手から守るには外国の城の方がいい。


今、腕の中にあるというのに、もどかしさに舌打ちをする。

全く、なんてことだ―――




ラッツィオの城が近付く。

幾つか建ち並ぶ城宮の中から、教えられていた窓まで飛ぶ。

打ち合わせ通り窓は開けられていて、テラスには一人の男が立っていた。

結構挑戦的な瞳を向けてくる、侮れない男と見る。


ユリアを抱いたまま、衝撃を与えないようそっと降り立った。


起こして声を聞いてしまえば、このまま連れ帰りたくなる。

慎重にせねば―――



「貴様がアリ・スゥラルか。・・・ふむ、確かにバルリークの傍らにいたな」


アリは丁寧に礼を取る。

流れるような柔らかな物腰、冷静に見える瞳の奥には熱いものが宿っている。

冷静な殻を被っているとは、その方がここでは便利という訳か。



「はい。御目に止まっておりまして大変光栄に御座います。しかし、まさか、漆黒の翼と呼ばれる貴方様が、このお方を浚って行かれるとは思いもしませんでした」


「・・・勘違いするな、私は彼女を守っただけだ。攫おうとしたのは別にいる。誰かは見当がついてるが、貴様には言えん」


「重々分かっております。それはこちらでも調査しておりますので、お教え頂かなくても結構です」