案内されたお部屋は温められていて、冷えていた体がほんわりとした空気に包まれてとても心地いい。

ラヴルは何も言わないままスタスタと部屋の中を横切っていく。

向かう先にあるのは―――


周りを花で囲ってあって、上にも花弁が散りばめてある。

魔の世界では“準備”と言えば、これが定番なのかしら、なんてぼんやりと思う。

それとも、ラヴルの趣味なのかも。


思い出すのは、小島での初めての夜。

あの時は、リリィが飾ってくれたんだっけ―――・・・



一歩進むたびにどんどん近付くそれ。

これからされる行為を思うと、体が熱くなってドキドキしてしまう。


「ラヴル・・・ここは何処なのですか?それに、さっきのお方はどなたですか?」


無言のまま、ぽすん・・と柔らかなベッドの上に乗せられて、見上げればラヴルが上着を脱いで遠くにある椅子に向かって投げつけていた。

それがふわりと制御されて、背もたれにパサッとかかってる。

覆い被さってきたラヴルから逃げるように、ベッドヘッドの方へずりずりと動く。

漆黒の瞳は獲物を狙うような光を放ってて、とても怖く見える。

妖艶な微笑みもなくて、何だかいつもと違う。


「ユリア、そう逃げるな」

「だって、貴方は質問に答えてくれていないわ。それに・・・今夜の貴方は、怖いもの」

「・・・ここは、ラッツィオの外れの街で、彼女はシレーヌ。ここの管理者だ。・・・さぁ、もう黙れ。貴女は、誰が何と言おうと、私のモノだ。それをしっかりと刻みつける必要がある」



抱き寄せられて降るような口づけを受けながら、背中の金具に指が乗って外されていく。

抵抗する間もなくするすると衣を脱がされて、ふわっと寝かされた。


花の甘い香りに包まれる中、指を絡め取られて額に唇が落とされる。



「今からは、私だけのことを考え、私だけを感じろ―――他は、許さん」



ここへ来る前に、さんざん与えられていた熱は簡単に呼び戻され、言葉は熱い吐息へと変わる。


リップ音を立てながら徐々に下へと移動していく唇は、体の芯を刺激して堪え切れない熱を生み出していく。


「っ、ん・・・」


漏れ出た声を拾うラヴルの表情は、少しだけ和らいでいる。

けど、触れてくる唇や指はより激しさを増していた。


首から胸へ、更に下に向かって唇と長い指が這いまわる。

容赦なく繰返し幾度も与えられる甘美な刺激。


頭の中が真っ白になってふわふわと夢の中を漂う。


体の中が蕩けてしまって自分が何処に居るのかも分からなくなる。

夢中で名前を呼びながら首にしがみついた。


リズムよく軋むベッドの音。

幾度もぴくんと撥ねあがる体。


『・・・ユリア・・・』


耳元で囁く低くて掠れた声。

大好きな響き。


想う人に抱かれる幸せを感じながら

いつしか意識は、白い世界へと旅立った。