ユリアとラヴルの間には、一人座れるくらいのスペースが空いていた。

それを半分くらい近付けて座った。


「駄目だ。もっとだ―――もっと傍に来い」


ユリアが少し動いてソファに座ると、ラヴルが“もっとこっちに”と言う。

それを何回か繰り返していると、ユリアの体がラヴルの体にぴったりとくっつくまでになった。

なんだか恥ずかしくて、俯いていると、漆黒の瞳が除き込んでクスッと笑った。


「やっと、傍まで来たな」



ユリアの瞳に、ラヴルの妖艶な微笑みが映っている。

その妖艶な笑みに、ユリアの心臓がトクンと小さく脈打った。


「―――私のモノだ」


逞しい腕がユリアの華奢な肩をしっかりと包み、ぐいっと引き寄せた。


男らしい厚い胸に頬が押しつけられ、ラヴルの規則的な息遣いが耳に届いてくる。

ユリアの心臓ははちきれんばかりにドキドキしていた。


こんなところに連れてきて、こんな風に抱き寄せられて・・・。

この方は一体何をするつもりなのかしら・・・。


体を包む腕から逃れたくても、何とか抵抗したくても、何故か、ちっとも体が言うことをきかない。

手脚を何とか動かすことができても、ただじたばたともがいているだけに終わってしまう。

そうこうしているうちに、ますますラヴルの腕の力が強まり、頬が胸に押しつけられていく。



「ユリア、そう逃げるな」



静かな声が心地よく耳に届く。


――逃げるなって言われても、無理だわ・・・。

男の人と二人きり、しかも相手はこんな御曹司の方で。

こんな居た堪れない空気、逃げたい・・・。


ラヴルの指が髪に触れ、少し濡れたストレートの黒髪を丁寧に梳き始めた。


「きちんと乾かさないと風邪をひく。人間は、か弱き者だ」


ラヴルの手にはいつの間にかタオルがあって、ユリアの長い黒髪を丁寧に拭き始めた。

たまに長い指先が柔らかい耳に当たり、するっと撫で上げている。


偶然なのか、わざとなのか、何度も耳に触れるラヴルの指先。


予想外の感触に驚き、何度も体がぴくんと震えた。

漆黒の瞳が柔らかに緩まり、その反応を楽しむかのように腕の中の体を見つめていた。


「ユリア、私が怖いか?」


「えっ・・・な―――怖くなんて・・・怖くなんて、ありません」



自分をからかうようなラヴルの瞳を見ると、心の中とは裏腹に、つい強がりを言ってしまう。


ユリアの様子を見ていたラヴルの漆黒の瞳が、月明かりでキラッと輝いた。